映画「 聖なる犯罪者 」考察レビュー、ダニエルの本心は?ラストの衝撃的な表情に注目
映画ライフ楽しんでますか?
今回は、ペンネーム(@mai)さんからの投稿レビューです。
キリスト教を扱った作品には手が延ばせない…そんな方にもお勧めしたいのが「 聖なる犯罪者 」です。
キリスト教ではありつつ、映画の中で触れられている内容は「 宗教 」全般に通ずるところがあり、本記事ではそんな少し変わったこの映画の魅力を掘り下げていきたいと思います。
画像の引用元:IMDb公式サイトより
(アイキャッチ画像含む)
聖なる犯罪者
公開日
2021年1月15日
原題
Boże Ciało
上映時間
115分
キャスト
- ヤン・コマサ(監督)
- バルトシュ・ヴィエレニア(ダニエル役)
- アレクサンドラ・コニェチュナ(リディア役)
- エリーザ・リチェムブル(マルタ役)
予告編
公式サイト
作品評価
[rate title=”5つ星”]
[value 4]映像[/value]
[value 4.5]脚本[/value]
[value 4.5]キャスト[/value]
[value 3]音楽(BGM)[/value]
[value 3.5]リピート度[/value]
[value 1]グロ度[/value]
[value 4.0 end]総合評価[/value]
[/rate]
感想レビュー
好きだった点
今作の魅力は主人公ダニエル役のバルトシュ・ヴィエレニアの演技力と、実話を基にしたという脚本の巧みさにあると思います。
バルトシュ・ヴィレニアの窪んだ眼とコケた頬は、胡散臭さを漂わせます。
一方で凄くきれいな瞳の色は、彼が本当に改心したのではないかと期待させるようでもあり、表情がカメレオンのように様々に変わっていくので「 彼の本心はどこにあるのか 」
という曖昧さが際立っていました。
無駄なエピソードがなく、すぐに物語の核となる部分に入っていくので、全編通して濃厚な内容になっていたのも良かったです。
嫌いだった点
地元の権力者、教会関係者、警察、少年院時代の知り合い、人間の弱さや欲に言及するために多くのキャラクターが登場。
実話を基にしたということもあってか、ほとんどの事柄に対して、決着はつかないままで終わります。
それがこの映画の醍醐味でもあるのですが、少しエピソードが散漫になっているような印象も受けました。
見どころ
「 ダニエルの本心はどこにあるのか 」という部分です。
少年院で出会った聖職者に感銘を受けて改心したかのように見えて、仮釈放されたら酒・ドラッグ・女のオンパレード。
それでも村の司祭になって村人のために働き、葬儀のお金を横領する誘惑にも抵抗する様子を見せます。
かと思うと、ラストのシーンでは、瞳孔が開いたような衝撃的な表情を見せます。
彼は改心して本気で司祭になろうとしたのか?
それとも巧く生きてくために司祭になりきったのか?
それが最後まで曖昧にされているため、一層、考察を深めさせてくれます。
考察レビュー
今作のキーポイントは「 正義に対するものはまた別の正義である 」「 宗教とは何なのか 」の2点だと思いました。
映画の核となるのは交通事故なのですが、「 男性の葬儀は地元では行わない 」という考えと「 夫は地元で埋葬されるべきだ 」という相反する考えが存在しています。
どちらの言い分も理解できるからこそ、主人公ダニエルはどう対処するか悩むのです。
ここには「 正義の反対はまた別の正義 」という考えが透けていて、村人たちの「 村の平穏のために葬儀は行わない 」というのも正義ではあるし、一方で男性の妻の「 葬儀は行うべきである 」というのも正義です。
一般的には、正義に相対する考えは悪であるとされますが、今作では「 自分の正義も誰かにとっての悪であり、絶対的な正義は存在しない 」と示されているように感じました。
この考えが「 宗教とは何か 」に繋がっていきます。
全ての物事に白黒をつけられないため、絶対的な解決策も存在せず、従ってその狭間で人々は思い悩むことになります。
それを体現するのがダニエルで、彼は司祭として全ての人に救済を与えるために動きます。
しかし、交通事故の原因が若者にあるのか男性側にあるのかも分からず、さらに事故の関係者全員が亡くなっている状況では真相を確かめることもできません。
もちろん、ダニエル以外にも、息子がタバコを吸うことに悩む主婦、若い時に少年院に入ったせいで将来性が見通せない若者。
多くの「 解決策・妥協点のない悩み 」を抱えた人がいます。
このように、世の中には解決が難しい悩みが絶えず存在していて、だからこそ「 あなたは赦されました 」という誰かからの救済によって、物事に対しての一定のケリをつけられるのです。
それが宗教の役目であり、赦されたからこそ信仰し、将来の赦しのためにまた信仰する。
そこには、人々が「 神 」ではなく「 誰かからの救済 」を求めており、この宗教の構造が透けてみえた実話エピソードに監督・脚本家が感化されたことが垣間見えるようでした。
この宗教観は、キリスト教のみならず多くの宗教に当てはまる考えではないかと思います。
まとめ
自分とは異なる宗教というのは、理解するのがなかなか難しいのです。
裏を返せば、他の文化を知るためのテーマとしては、うってつけであるということも言えると思います。
今作を機に、キリスト教の作品に触れてみたいと思った方には「 魂のゆくえ 」「 幸福なラザロ 」もお勧めします。