文・ライター:@ayahhi
親子であってもすれ違う価値観。
かと思えば血は争えず。
「 思い通りにならないこと 」の経験が人を成長させることを物語る、メッセージに溢れた名作。
僕らの世界が交わるまで
あらすじ
DV被害者のためのシェルターを運営する母エヴリンと、ライブ配信で人気の高校生ジギー。ある日、互いを分かり合えない母と子の日常にちょっとした変化が訪れる。
原題
When You Finish Saving the World
公開日
2024年1月19日
上映時間
88分
予告編
キャスト
- ジェシー・アイゼンバーグ(監督)
- ジュリアン・ムーア
- フィン・ウルフハード
- アリーシャ・ボー
- ジェイ・O・サンダース
- ビリー・ブリック
- エレオノール・ヘンドリックス
公式サイト
作品評価
- 映像
- 脚本
- キャスト
- 音楽
- リピート度
- グロ度
- 総合評価
考察レビュー
キャラクターの個性が際立っていて飽きません。
人間の痛々しさやかっこ悪さを絶妙に描いているのも興味深い点です。
DV被害者を守る社会的意義の高い仕事をしている母親エヴリンは、職業上は社会的地位のある「 善意の人 」ではありますが、時として善意を他人に押し付けてしまう身勝手さを持っていたり、
ごく自然に自分以外の価値観を排除(あるいは差別)する人間です。
一方で、ネット上の人気者の息子ジギーは、音楽や好きな女の子など、情熱的にまっしぐらに突き進み、名誉や金銭、人気といった自己中心的な欲望に振り回されますが、努力をしたり、変化しようともがき、
やがて自身の幼さ、拙さにだんだんと気づいていく意外性を見せます。
人には、普段見えている姿とは違う面があることを巧みに演出していると感じます。
そして、彼らの空回りっぷりを見ていると、こういう人、いるな、とか、自分もこういう時、あるな、といやに身につまされた思いになり、この親子に親近感を覚えます。
ジギーが恋焦がれる聡明なライラが披露するマーシャル諸島の詩の中に、彼らがいかに戦争に蹂躙されてきたかという訴えがあり、なかでも、日本が行ってきた加害が語られるくだりにドキッとさせられます。
本作は価値観の異なる親子を描いたエンターテイメントではありますが、社会的な視点にも溢れていると終始感じました。
キャストの人種の公平なバラつき具合や、DVという社会問題、そこから派生する親子問題、若者の自殺、世界の政治情勢、見えない搾取、平等に見えて実は根深い階級社会とその再生産など、
社会的要素をふんだんに盛り込んでいることが、この作品を一段高いところへ押し上げているように感じました。
決して「 社会派 」という固さはないのですが、見る人が自然と現実社会を直視するような試みがなされているのではないでしょうか。
単なるコメディとは一線を画した優れた作品だと思います。
人間の愚かさや可愛らしさを感じました。