文・ライター:@LEDMAXI
一言で表すには多様性と幻想性に富みながら、真理への探究心に溢れている。
ヒトの在り方の原罪を思考すれば、現代社会のいびつを知れる面白さが溢れてる。
哲学的な作品ほど、シンプルに本筋を捉えれば、物語の主旨は容易に認識できる。
哀れなるものたち
あらすじ
天才外科医によって蘇った若き女性ベラ。彼女は未知なる世界を求めて大陸横断の旅に出る。 時代の偏見から解き放たれ、平等と解放を知ったベラは驚愕な成長を遂げる。
原題
Poor Things
公開日
2024年1月26日
上映時間
142分
予告編
キャスト
- ヨルゴス・ランティモス(監督)
- エマ・ストーン
- マーク・ラファロ
- ウィレム・デフォー
公式サイト
作品評価
- 映像
- 脚本
- キャスト
- 音楽
- リピート度
- グロ度
- 総合評価
考察レビュー
本作は是非ともアラスター・グレイの原作小説を読んでみたい。
映像で視覚聴覚を主とした五感で感じる体験。
文字を追うことで、主題や副題を現実的に知識を駆使して理解する経験。
この経験の差異を橋渡しできる感性が、自分に備わっているのかを確認してみたい。
この感性こそが、ベラが成熟した大人の肉体を持ち、脳は赤子の無知無垢な感性(精神と知識≒知恵)が酸いも甘いも知る、大人の肉体が衝撃と共に体感するプロセッサー(アンテナ)となり、急速な成長を遂げさせる。
肉体、特に性欲と性交(自 / 他)は知り始めは快楽にのみ没頭し掘り下げていく。
しかし、快楽に埋没し、達成する瞬間は男も女も苦悶の表情とうめき声をあげるもの。
ただただ、それを繰り返す。
それこそ覚えたての猿は寝食を忘れ、死ぬまで没頭すると言う。
しかし、性の真理に到達すると、そこには苦悶はなく、恍惚とした悦楽がある。
では、性欲と相対する感性は何か?
それは識欲として知ることに貪欲になる感性。
フランスの哲学者パスカルの言葉「 人間は考える葦である 」をベラは体現している。
1を知ることで10を学ぶ知的欲求が満たされることに悦楽を得ていた。
要するにベラ(ヒト)が成長していく過程を、幻想的な表現で彩っているに他ならない。
幼児の欲求は、貪欲さは獣と変らず際限がない故に餓鬼と言う。
そして、知を得ることでヒトになっていく。
ベラは更にその先の至高に近づいている。
先進国における、現代社会は多様性を求めている。
いや、強要させられている。
多様性の受容を提唱しつつも、最終的に少数派を洗い出し、大多数の画一性による寛容と言う体裁の衣を纏った支配計画ではないだろうかと思うことしばしばである。
父性と支配のゴドウィン。
男性社会の象徴たる金と快楽と暴力のダンカン。
しかし、ベラは欲に流され放蕩(ほうとう)するが、根底にはマックスが存在し、最終的には戻って来る。
マックスこそが寛容の象徴であり、自戒と謙虚を持ち相手を理解することに務めるベラとは、対局に立つ到達者だと僕は理解した。
マックスの示す寛容こそが真実の多様性であり、本来の神が教え諭す生命の平等ではないだろうか。
まとめ
本作が一見すると難解に思えるのは、シュールレアリスムな映像美であって、キリコやダリやマグリットの描写のような世界観が、
主題に対して、映画としてもエキセントリックかつ静謐(せいひつ)な美観を構築している。
映像美と脚本と演技を縦割りすることで、本作の本質がシンプルに切り分けられ理解できる。
それが多様性への理解に向けた進歩に繋がると教えてくれる。