文・ライター:@小松糸
とある雪山の山荘で一人の男性が転落死した。最初は事故死のように思えたが、次第に妻であるベストセラー作家のサンドラに殺人の容疑がかかってしまう。
落下の解剖学
あらすじ
物語の舞台は人里離れた山荘。視覚障害を持つ11歳の少年が転落死した父の死体を発見する。捜査の中で浮かび上がる数々の謎。事故と思われたが、物語は意外な方向へと進んでいく。
原題
Anatomie d’une chute
公開日
2024年2月23日
上映時間
152分
予告編
キャスト
- ジュスティーヌ・トリエ(監督)
- サンドラ・ヒュラー
- スワン・アルロー
- ミロ・マシャド・グラネール
- アントワーヌ・レナルツ
- サミュエル・セイス
- ジェニー・ベス
公式サイト
作品評価
- 映像
- 脚本
- キャスト
- 音楽
- リピート度
- グロ度
- 総合評価
考察・解説レビュー
圧倒的な臨場感で、まるで裁判の傍聴席に座っているような感覚になった。
この映画を語る上で、他の鑑賞者も口を揃えて言うのは「 犬の演技がうますぎる 」という評価だった。
実際に鑑賞したらその名演技にとてもびっくりしたし、メイキングの映像やレポートを読むとさらに賢さが伝わって驚いた。
スタッフも愛情を持って接していたのがわかるし、メッシ(犬)もこの作品に対して真摯に向き合って撮影に臨んでいたことがわかった。
転落死した夫は自殺したのか、他殺なのか、事故なのか。
この3つの可能性の中で最も有力なのは、妻のサンドラが殺したのではないかという説だった。
その理由は、亡くなる前日に2人は大喧嘩をしていたから。
創作活動のため、夫は日常的に様々なものを録音していた。
今回重要になったその喧嘩も録音により発覚したものだが、その喧嘩の一部分だけを切り取ってこの夫婦は不仲だったとか決めつけるのは非常に良くない。
常に喧嘩していた夫婦だったわけではなくて、たまたまその日そうなっただけのことなのだ。
そしてその喧嘩のシーン、夫婦ふたりの芝居にとても心を掴まれた。どう考えても台本があったようには思えないほどの熱量で生々しいやりとり。
夫婦関係の信頼と愛情の下降をリアルに描いていた。唯一の証人は視覚障害のある息子のダニエルだが、幼いながらにもいろんなものを吸収し、自分の力で知りたいという気持ちになんとも言えない気持ちになってしまった。
親同士の喧嘩なんて録音データだとしても聞きたくないだろうし、まだ小さいのに父を亡くし母に容疑がかかっているなんて、かなりストレスのかかる状況なのに。
裁判の証人尋問の際、父と話した会話を思い出して語るシーンがあった。ダニエル自身もそこで何かを察し、自問自答をしていたように思える。
喧嘩に関して問われた際、夫婦も所詮他人同士なんだからいろんなことが起こるということをサンドラが話していたが、夫との出会いや思い出、暮らしの中で得た気づきを話す視線や表情に、夫に対する計り知れない愛情を感じた。
そのシーンのサンドラに心が乗り移ってしまうような感覚と映画から得た様々な学びが、この映画がとても好きな理由になった。
まとめ
「 落下の解剖学 」のタイトルが表す転落死という観点と、夫婦関係の堕落の描き方はうまく繋がっているように思える。
オスカーの脚本賞にも輝いた作品だが、会話や登場人物の関係性が細かく、観ていて飽きない作品だった。