1959年にミシガン州で生まれたサム・ライミ。
高校生の頃にブルース・キャンベルと出会い、8ミリ映画を自主制作していた。
1981年に「 死霊のはらわた 」で劇場公開デビュー。
以降、数々の作品を世に放ちながら、2002年の「 スパイダーマン 」で大ヒットを記録し、名実ともに監督としての地位を築き上げた。
今回は、デビュー作の「 死霊のはらわた 」から「 ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス 」(2022)に至るまで、奇才サム・ライミ監督の軌跡を振り返る。
一人の映画監督の作品群を網羅することで、今まで知り得なかった表現の進化や映画界における歴史の転換点を知ることができるかもしれない。
スプラッターホラーの金字塔であり、史上最高のカルト映画との呼び声も高い「 死霊のはらわた 」から、彼はどのようなキャリアを歩んできたのだろうか。
サム・ライミ監督の手掛けた作品たちから、その真相に迫っていこう。
サム・ライミ作品一覧

サム・ライミの監督作品は以下の通り(計15作品)。
- 死霊のはらわた(1981)
- XYZマーダーズ(1985)
- 死霊のはらわたII(1987)
- ダークマン(1990)
- キャプテン・スーパーマーケット(1993)
- クイック&デッド(1995)
- シンプル・プラン(1998)
- ラブ・オブ・ザ・ゲーム(1999)
- ギフト(2000)
- スパイダーマン(2002)
- スパイダーマン2(2004)
- スパイダーマン3(2007)
- スペル(2009)
- オズ はじまりの戦い(2013)
- ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス(2022)
死霊のはらわた(1981)

原題(英題)
The Evil Dead
公開日
1985年2月23日(日本初公開)
上映時間
85分
キャスト
- サム・ライミ(監督)
- ブルース・キャンベル
- エレン・サンドワイズ
- ハル・デルリッチ
- ベッツィ・ベイカー
- サラ・ヨーク
コメント
本作は、サム・ライミ監督が低予算ながら作り上げた初の劇場公開映画にして、スプラッターホラーの金字塔。
とある古家に遊びにやってきた5人の若者たちが、地下室にある「 死者の書 」と謎の録音機を見つけ、音声を再生してしまう。
それは森に住む死霊を呼び覚ますための呪文であり、次々と仲間たちに憑依してしまうのであった。
サム・ライミ監督による独特のカメラワークは、斬新でおもしろい。
血飛沫や死霊の姿など、グロテスクで生々しい残酷描写が続き、煮えくりかえった内臓の中にいるかのような気持ち悪さがある。
しかしながら劇中で死霊が話しているシーンは、どこか飄々としている。
そことなくユーモアのセンスが感じられるためか、気分が悪くなりそうな場面でも、全体を通して言えばスッキリとした抜け感があるから不思議だ。
色々な縁があってカンヌ国際映画祭で上映されたことをきっかけに、そこに居合わせたスティーブン・キングがきちんとした批評を雑誌に掲載。
死霊ではなく運を呼び覚ましたサム・ライミ監督は、見事にヒットを勝ち取った。
なお、本作の小屋のシーンの編集にはエドナ・ポールのアシスタントとしてジョエル・コーエンが携わっている。
XYZマーダーズ(1985)

原題(英題)
Crimewave
公開日
1986年2月1日
上映時間
86分
キャスト
- サム・ライミ(監督)
- リード・バーニー
- シェリー・J・ウィルソン
- ポール・L・スミス
- ブライオン・ジェームズ
- ルイーズ・ラサー
- エドワード・R・プレスマン
- ブルース・キャンベル
- ハミッド・デイナ
- フランシス・マクドーマンド
コメント
サム・ライミ監督がジョエル&イーサン・コーエンと脚本を手掛けたアクションコメディ。
どったんばったん騒がしくも、ホラー要素を微量にスパイスした迫力満点のアクションが心をスカッとさせてくれる。
コミックが大好きなサム・ライミ監督らしい演出の数々も、日本人なら誰もが受け入れやすいのではなかろうか。
物語は、殺人の容疑で今まさに死刑が行われそうな主人公・ビックが、これまでの経緯を回想することから始まる。
ビックが恋心を寄せるナンシーという女性を、殺し屋コンビが勘違いで誘拐。
それを追いかけるビックだったが、とんでもない騒動に巻き込まれていくのだった。
主演は舞台役者として有名なリード・バーニー。
死霊のはらわたII(1987)

原題(英題)
Evil Dead 2: Dead by Dawn
公開日
1987年11月21日
上映時間
85分
キャスト
- サム・ライミ(監督)
- ブルース・キャンベル
- サラ・ベリー
- デニス・ビクスラー
- ダン・ヒックス
コメント
もはやホラー映画の皮を被ったコメディと化した「 死霊のはらわた 」のリメイク。
「 死者の書 」とボイスレコーダーから再生された呪文により死霊が復活する流れは前作と同様。
主人公のアッシュは恋人のリンダを死霊に乗っ取られ、断腸の思いで彼女を切断する。
しかし、ゾンビと化した彼女に噛まれてしまった右手が感染。
自ら右手をちょんぎるのだが、新たな死霊が次々にやってくるのであった。
ブルース・キャンベルが演じる主人公のアッシュは、こてんぱんにやられた上に右手を切断することになり、死霊に乗っ取られる場面もある。
それでも不屈の精神で正気に戻り、死霊を追い払う。
鉄人ばりの強さは、もはやコミックヒーローですらある。
死霊との激闘を繰り広げながらも、トムとジェリーばりの追いかけっこやコメディタッチな演出が散りばめられている点も斬新でおもしろい。
観賞中は、飽きるどころか笑いと恐ろしさの両方を味わうことができ、奇妙な感覚に陥る。
まるで一つのガムで2種類の味を楽しめるかのような未知の体験だ。
そしてラストは驚嘆だ。
サム・ライミ監督の世界観が爆発し、思わぬ形で着地する本作は、色々な意味で恐ろしい。
ダークマン(1990)

原題(英題)
Darkman
公開日
1991年3月21日
上映時間
96分
キャスト
- サム・ライミ(監督)
- リーアム・ニーソン
- フランシス・マクドーマンド
- コリン・フリールズ
- ラリー・ドレイク
- テッド・ライミ
コメント
怒りに満ちたダークヒーローを迫力のあるアクションで描いた、コミック好きのサム・ライミ監督らしい作品。
時代の色を感じさせる古めかしい映像もまた味わい深く、彼のアイデアが詰まった魅力溢れる映画だ。
主演はリーアム・ニーソンで、本作が映画初主演。
ダークマンこと科学者・ペイトンの恋人・ジュリー役には、「 ミシシッピー・バーニング 」(1988)のフランシス・マクドーマンドが出演。
奇妙な2人の共演がなされていたことも、非常に興味深い。
物語は、科学者のペイトンがギャングに襲撃され、拷問によって顔面と両手を破壊され、全身に大火傷を負わされることから始まる。
復讐の炎に燃えたペイトンは、やがて自身が研究していた人工皮膚で変装し、次々とギャングに報復していく。
リーアム・ニーソンが多彩なアクションを披露し、復讐に燃えるダークマンを快演。
96分間の短い尺の中で繰り広げられるノンストップアクションは、テキーラを一気飲みするかのような強い喉越しを覚える。
「 バットマン 」を彷彿とさせる戦闘スタイルや、サム・ライミ監督らしいカメラワークとホラー演出も本作の見どころと言っていいだろう。