文・ライター:ayahhi
家父長制やジェンダーの呪い、セクシュアリティの抑圧から生まれる不幸を鮮やかに描く、本国パキスタンで上映禁止も納得の意欲作。
ジョイランド わたしの願い

あらすじ
大都市ラホール、保守的な中流家庭ラナ家は3世代で暮らす9人家族。次男で失業中のハイダルは、厳格な父から「早く仕事を見つけて男児を」というプレッシャーをかけられていた。妻のムムターズはメイクアップの仕事にやりがいを感じ、家計を支えている。ある日ハイダルは、就職先として紹介されたダンスシアターでトランスジェンダー女性ビバと出会い、パワフルな生き方に惹かれていく。その「恋心」が、穏やかに見えた夫婦とラナ家の日常に波紋を広げてゆく——
(公式サイトより引用)
原題
Joyland
公開日
2024年10月18日
上映時間
127分
予告編
キャスト
- サーイム・サーディク(監督)
- アリ・ジュネージョー
- ラスティ・ファルーク
- アリーナ・ハーン
- サルワット・ギラーニ
公式サイト
作品評価
- 映像
- 脚本
- キャスト
- 音楽
- リピート度
- グロ度
- 総合評価
優れている点

異性愛夫婦とトランスジェンダー女性の三角関係という構図が新鮮でした。
また、セクシャルマイノリティを描いた作品にありがちな、当事者の不幸にフォーカスした内容とは一線を画した
多くの視点が存在する描き方に好感を持ちました。
マイノリティを差別する社会は、マジョリティもまた生きづらいという事実をうまく表現していたと感じます。
考察
世界経済フォーラムによると、各国の男女格差の現状を評価する「 ジェンダーギャップ指数 」において、パキスタンは146か国中145位(2024年版)。
本作では、その中でも数値化されにくい、家庭内の男女格差を鋭く描きます。
- 女の子が無事生まれたのに「 男じゃなかった 」と落胆する夫婦
- 仕事が生き甲斐の嫁を無理やり専業主婦にし、男の子の出産を期待する義父
- 家事は女性に任せきり
- 女性の外出は義父の許可が必須
…といったように、家庭内での慣習や、「 女性とはかくあるべき 」という押し付けに息苦しさを感じます。
しかしながら、日本のジェンダーギャップ指数も118位と低迷。
パキスタンが今抱える息苦しさは、ほんの数十年前の日本が抱えていたものであり、その名残が現代の日本にもまだまだ存在すると言えるでしょう。
また、不幸を被るのは女性だけではありません。
「 男は強くあれ 」「 女は家に入り男を産め 」という社会は、トランスジェンダー女性への風当たりが非常に強いのはもちろん、
男性もまた、高い所得や腕力の強さなどの「 男らしさ 」へのプレッシャーに晒され続けます。
それは、うまくいかなければ「 男のくせにだらしない 」と見下されることの裏返しでもあります。
こんな、みんながつらい思いをする価値観なんてなくなればいい、と感じました。
まとめ
上映禁止になるということは、それだけ都合の悪い真実だと言えるかもしれません。
価値観は、大きな世の中のうねりの中で変えていけるものでもあります。
本作が現代の世に出て、世界的な評価を受けたことが、息苦しさを抱える人たちがのびやかに暮らせる契機になることを願います。