文・ライター:@小松糸
「 スリー・ビルボード 」の監督マーティン・マクドナーが、人の死を予告するというアイルランドの精霊・バンシーをモチーフに描く人間ドラマ。
イニシェリン島の精霊

あらすじ
公開日
2023年1月27日
原題
The Banshees of Inisherin
上映時間
114分
キャスト
- マーティン・マクドナー(監督)
- コリン・ファレル
- ブレンダン・グリーソン
- ケリー・コンドン
- バリー・コーガン
予告編
公式サイト
作品評価
- 映像
- 脚本
- キャスト
- 音楽
- リピート度
- グロ度
- 総合評価
考察レビュー

「 ヒットマンズ・レクイエム 」の主演2人と監督の再タッグであり、監督はあの「 スリー・ビルボード 」を製作したマーティン・マクドナー。
話題性ある作品だ。
余韻の残し方や観客に想像させるような作りが見事だった。
薄気味悪く進むストーリーの中で、ヤギや犬など島でのびのびと暮らす動物たちの可愛さが救い。
癒された。
先日公開された映画「 グリーン・ナイト 」にも出演していたバリー・コーガンは、今後多くの作品や賞レースで見かけることになるだろう。
「 グリーン・ナイト 」では少し多動ぽい山賊の青年を演じており、今回もキャラクターは似ているものの、その繊細な芝居に見入ってしまった。
主役ではないがバッチリ印象に残る演技で、どこか掴みどころがない。
本当に芝居 が上手い人だなと思った。
物語はコリン・ファレル演じるパードリックが、ブレンダン・グリーソン演じるコルムにある日突然絶交を告げられるというもの。
理由はパードリックがつまらない人間だから。
コルムが言いたいことはわからなくもない。(私がそういう経験があるないとかではなく、なんとなくわかる)
でも実際自分の友人にこんなこと言われたら私は大泣きしてしまう。
私は2人とも住む世界が狭すぎると思った。
もっと広い視野を持ち、島以外の場所に交友や世界を持てば、価値観がガラッと変わる気がする。
暇もつまらないも、島という閉鎖的な空間が生み出しているんだと思う。
2人がもう一度親友に戻る世界線はあるのか。
最後のシーンから映画のその先を想像させてくれた。
オスカーの作品賞にノミネートされている今作。ゴールデングローブ賞でも功績を残し話題になった。
オスカーでも多くの部門でノミネートされているので、好成績を期待したい。
コルムが指を切り落とした理由は?

芸術に造詣が深く、おそらく教養人であろうコルムが、性格は良いけれど無口で田舎者のパードリックとの交友関係に「 もういい、嫌だ 」と拒絶したくなる気持ちは理解できるかと思います。
劇中でパードリック自身が、ドミニクにつきまとわれて「 鬱陶しい 」と感じていた感情と同じです。
では、なぜ「 指を切る 」まで行ってしまったのでしょうか?
人間心理としては異常であり、狂気じみています。
コルムとパードリックの争いは、アイルランド国内で起こった内戦を象徴しているのでは?
1921年にアイルランドはイギリスと独立戦争を戦っており、アイルランド側は革命軍IRA(アイルランド共和軍)を組織し、イギリス軍と戦いました。
本作の物語が起こった年である1923年に、イギリスとアイルランドは休戦条約を結び、この条約には「 イギリス領だが自治権を認める 」という内容が含まれていました。
この中途半端な条約について、アイルランド国内でも意見が分かれました。
賛成派は、「 とにかく戦争を止めてここを足がかりに、政治的に完全な独立を目指そう 」と考えましたが、反対派は「 結局はイギリス領のままであり、オマケに北アイルランドはイギリスに取られたままだ 」と猛反発。
その結果、アイルランド国内で、かつて同じIRAで肩を並べてイギリスと戦った人々が、血みどろの内戦を始めてしまったのです。
アイルランド内戦は「 親友同士が、ある日突然敵となって殺し合う 」という、アイルランドの悲劇を、田舎にありがちな人間関係に置き換えて描かれたものと思われます。
ただし、これは公式の見解ではなく、監督や脚本家の意図を確認することはできません。
作品を観る人によって、受け止め方や解釈が異なるということは、芸術作品の持つ魅力でもあります。