ショッキングなタイトルイメージを裏切らない、切り口の新鮮さが突出した異色作。
凝った展開も興味深し。
皮膚を売った男

公開日
2021年11月12日
原題
L’Homme qui a vendu sa peau
上映時間
104分
キャスト
- カウテール・ベン・ハニア(監督)
- ヤヤ・マへイニ
- ディア・リアン
- ケーン・デ・ボーウ
予告編
公式サイト
考察・感想レビュー
好きだった点
視点がユニークな点。
シリア難民の男性(主人公)、サムが不当逮捕の末、愛する恋人と離れざるを得なくなった悲劇を、社会派ドキュメンタリーとして描くのは想像がつきます。
しかし、この作品は、そこにいくつも捻りを加えています。
「 恵まれた側=ヨーロッパ 」のアーティストが、サムの背中にヨーロッパ渡航ビザのタトゥーを掘り、自分の支配下に置きながら一見自由と富を与える。
サムはそのいびつな自由を謳歌する。
それでも、シリアで爆撃におびえる日々よりは良いわけです。
加えて、裕福な男と結婚した恋人に逢える。
ここにもいびつな希望があります。
いざ渡ったベルギーでは、シリア人の人権保護団体から「 シリア人への冒涜であり人権侵害だ。彼は搾取されている 」
という声を浴びます。
なんという矛盾に満ちた、悲劇的で奇妙な事態かと思います。
その描き方が独特で、引き込まれました。
ちなみに、この作品は人間の背中にタトゥーを掘り、椅子に座らせて、その背中を展示するという実際に存在したアートに触発されているそうです。
おまけに、劇中でアートの価値をビジネス的に算出する保険会社の社員が、そのアートを作り出した本人とのこと。
何とも皮肉に満ちた、遊び心あふれる演出でしょう。
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嫌いだった点
イスラム国に処刑されるサムの映像です。
あのオレンジ色の服や処刑シーンは、トラウマティックであり、ハッピーエンドと共に描かれるのは抵抗があります。
ただ、それだけにシリアの人たちが、そうした脅威と日常が背中合わせだということなのかもしれませんね。
サムは自分の体を使って搾取され、人権を侵害をされたとも言えるし、富と自由を得て幸せにたどり着いたとも言えます。
その表裏一体さというか、いびつさ、あやうさというものが、作品全体に異色さを与えていて興味深いです。
私たちの人生もまた、そうしたいびつさや危うさと共にあるものなのかもしれませんね。
まとめ

「 自由の身 」であることに思いを馳せる作品です。
自分の人生と重ねて見ることをお勧めします。