文・ライター:@ayahhi
綺麗事だけでは生きていけない人間の本音が恐ろしい。
印象的に挿入されるMRIの画像のようなヨーロッパのリアルな断面図を見せられる、実に興味深い社会派作品。
ヨーロッパ新世紀
あらすじ
物語の舞台はトランシルヴァニア地方の村。ドイツへ出稼ぎに行っていたマティアスは、暴力トラブルを起こして帰国。彼と妻の関係は冷え切っていた。息子も森で何かを目撃して以降、口がきけなくなっていた。
原題
R.M.N.
公開日
2023年10月14日
上映時間
127分
予告編
キャスト
- クリスティアン・ムンジウ(監督)
- マリン・グリゴーレ
- ユディット・スターテ
- マクリーナ・バルラデアヌ
- オルソレヤ・モルドバン
- アンドレイ・フィンティ
- マーク・ブレニッシ
- オデシュ・クリサン
公式サイト
作品評価
- 映像
- 脚本
- キャスト
- 音楽
- リピート度
- グロ度
- 総合評価
考察レビュー
人種差別に抗議して職を失いながらも、人種差別に無関心を決め込むマティアスや、有能で自由で独立しながらも、不倫関係をやめられないシーラ。
倫理感あふれる経営者の顔を見せつつ、外国人雇用で補助金を求めるシーラの上司と、矛盾がひしめいており、その矛盾にも共感ができてしまう描き方なので、作品に強く引き込まれました。
本作のポスターには「 人間の対立と凶暴性を描く正規の問題作 」とあり、あたかも恐ろしいフィクションかのように思わる言葉があります。
しかし実際は、問題作でもなんでもなく、今、ヨーロッパで起こっている(そしてどの世界でも起きうる)ルーツによる分断をそのまま描いたドキュメンタリーのように感じました。
なんと17分!のワンカットの議論シーンは圧巻です。
いわゆるリベラル・人道派の西欧の価値観と、経済的に恵まれず、移民の受け入れが生活の脅威となる東欧の小さな村の価値観。
それは相いれないどころか、互いを軽蔑しあっているように感じます。
また、興味深いことに、そのどちらにも「 確かに 」と思わせる言い分があるのです。
前者は一見好ましいように見えて、実際は自分の生活を重視します。
その証拠に、安い賃金で外国人を雇用する経営者は、自らはベンツに乗り、その生活は手放そうとしません。
また、移民を排斥しようとする地元住民は、あたかも悪者のように思えますが、移民が自らの経済生活をおびやかすことが現実となった時、いったいどれくらいの人が人道的な態度を保てるだろう?と思います。
人間の価値観や倫理観など、実際はそれほどにもろいものなんだ、という「 人間の現実 」をまざまざと見せつけられます。
まとめ
「 俺は人種差別なんてどうでもいいんだ 」と発言をしたマティアスに、シーラが「 そこよね 」と返すシーンはハッとさせられます。
分断が起こっている現場で最も厄介な「 無関心 」という態度が火に油を注ぐモデルケースを描いたともいえる、衝撃作でした。