デンマークの美しい田園風景を背景に、叔父と姪の生活を淡々と描いた作品。
この淡々とした作品に何故こんなにも惹かれるのか?
その謎を紐解いていきたいと思います。
わたしの叔父さん

あらすじ
デンマークの田舎で一緒に暮らす叔父と共に酪農業を営む27歳のクリス。足の不自由な叔父を気遣いながら、2人で家畜の世話をし、食事や買い物などの日々のルーティンを淡々とこなしていく。会話こそ少ないものの、彼らは不器用ながらも互いを思いやり、単調に繰り返される日常を懸命に丁寧に送っていた。そんなある日、クリスは教会で知り合った青年からデートに誘われる。
公開日
2021年1月29日
原題
Onkel
上映時間
106分
キャスト
- フラレ・ピーダセン(監督)
- イェデ・スナゴ―
- ぺーダ・ハンセン・テューセン
- オーレ・キャスパセン
予告編
考察・感想レビュー

好きだった点
叔父さんとクリス(姪)の静かな日常に流れる、付かず離れずの関係性が好きでした。
お互いにいつか別れが来ることを知りつつも、そのタイミングを何度も逃してきた2人。
そこには、父娘とは少し異なった愛情があり、クリス自身も「 家族を失った自分を救ってくれた 」という恩以上の感情を叔父さんに対して抱いている。
少しずつ伝わってくるストーリー構成が好きでした。
嫌いだった点
愛情が少しだけ異常かなという気もしました。
好きな人や追いかけたい夢があり、その道に進むのか(つまり叔父さんとの生活に終止符を打つのか)悩んだ末、結局は叔父さんを支える道を選ぶクリス。
いくら叔父さんを恩人以上に大切な存在とみなしていようと、そこまで献身的になるのは少し過剰なのではと感じました。
見どころ
フラレ・ピーダセン(監督)は、日本の巨匠である小津安二郎監督を尊敬していて、そのリスペクトが随所に溢れていました。
小津監督の魅力はは、計算された構図と家族の関係性を丁寧に描くストーリーの2つにあります。
フラレ・ピーダセン(監督)は、その魅力を表現しようと自分なりに工夫していました。
2人の空間の中で、あえて手元の日用品や動物にピントを合わせて人物をぼかしてたり、美しい風景と2人を静止画のように映したり。
構図というよりは、映像をどう印象的に美しく切り取るかにフォーカスした作品でした。
映像の美しさと、少ない会話で進んでいく淡々とした日常。
淡白さがあるからこそ、2人や周囲の人物がいま何を考えているのかを常に考える余白が生まれ、少しずつその関係性の難しさに思いを巡らせ惹きこまれていくのです。
本作に惹きつけられるのは、描かれるのが叔父と姪だろうと、そこに多くの人に共通する「 家族の有り様 」が存在しているからだと思います。
家族は子どもが社会に出たり伴侶が亡くなったりと、喪失を経て変容していくものです。
劇中の叔父とクリスにも、恋人や夢といった別れのタイミングが訪れます。
しかし、クリスも叔父も「 旅立ち 」を受け入れることが健全だと思いながら、お互いへの深い思いが故に別れることが出来ず、結局2人で生活を続けることに。
ここに小津安二郎監督にも通じる「 家族性 」が垣間見えます。
常にそばにいて共同生活を続ける上で、お互いに思いやることが当たり前だからこそ、それが変容するのは自分の世界が1つ喪失するような感覚に陥ります。
それを受け入れるのは容易くはないですが、多くの人が1度は体験するものであり、その普遍性があるからこそ、観客側は登場人物たちに共感し、映画の世界に惹きこまれるのだと思います。
そのような思いを深めるのに十分なほど静寂な時間が劇中にあり、別々の朝食などのリアルさがあるからこそ、より一層映画の世界観が深まるのだと思います。
まとめ
「 小津監督をリスペクトする監督の作品 」という触れ込みに惹かれて鑑賞しましたが、いい意味で小津監督の良い部分を取り入れつつ、オリジナル性も加えられた作品。
鑑賞後もどっぷりと余韻に浸れました。
本作が気に入ったという方は、小津安二郎監督の「 晩春 」もお勧めです。
構図の美しさに惹かれた方は、小津安二郎監督をリスペクトする外国人監督の作品「 コロンバス 」も楽しめるのではないでしょうか。
登場人物たちに思いを馳せるために用意され、静寂に浸る映画というのも良いなと思える作品でした。