舞台は19世紀のオーストラリア。
そこはイギリスの植民地であり流刑地。
そして、原住民アボリジニへの差別が横行していた残酷な世界。
イギリス人兵士に家族を殺された流刑囚のクレアは、案内役として雇ったアボリジニのビリーと2人だけで孤独な復讐を始める。
過酷な環境の中でリアルな感情をさらけ出し、人種を超えて“人間”として真に分かり合うクレアとビリー。
ダイバーシティが話題になる昨今、是非見てほしい作品です。
ナイチンゲール
あらすじ
アイルランド人のクレアは、盗みの罪で捕まり、流刑地であるオーストラリアのタスマニア島で暮らしていた。原生林の駐屯地で英国軍の下働きをしながら、同じ囚人のエイデンとの間に娘を儲けるクレア。隊長が推薦状を発行すれば囚人は自由を得られるのだが、残忍で軽薄な隊長のホーキンス中尉は口約束ばかり。歌の上手いクレアに英国のナイチンゲールの歌を歌わせ、奴隷扱いでレイプを繰り返していた。
公開日
2020年3月20日
上映時間
136分
キャスト
- ジェニファー・ケント(監督・脚本)
- アシュリン・フランシオーシ
- サム・クラフリン
- バイカリ・ガナンバル
- デイモン・ヘリマン
- ハリー・グリーンウッド
予告編
考察・感想レビュー
感情移入しやすい登場人物の人間臭さ
19世紀オーストラリアという舞台。
メインキャラクターが囚人とアボリジニという特殊な設定でしたが、そうした歴史背景に詳しくなくても心から感動できる作品です。
なぜなら、登場人物全員がめちゃめちゃ人間臭いからです。
感情をむき出しにして行動していくものばかり。
主人公のクレアは、初めこそ怒りと凶器に取り憑かれ復讐に走りますが、復讐の過程で殺人の罪悪感に潰され迷いが生まれます。
家族の仇を取るために全て捨てたつもりでも、殺した敵の顔が夢に出て眠れない。
その様からは実に非合理的で人間らしい心の葛藤が感じられます。
1番近くでクレアの葛藤を見ていたのはアボリジニのビリー。
白人でしかも弱い女性であるクレアに反抗的な態度をとっていましたが、クレアの生々しい感情の爆発を見て、徐々に白人と原住民という関係性を超えて信頼を寄せていきます。
クレアの葛藤を真横で見てきたビリーが最後に起こす行動に是非注目してください。
クレアの家族を殺した宿敵であるホーキンス大尉は、非道な行動の暗に自らの権力とプライドを守ろうとする弱い自分がいます。
自分の強さを誇示しないと弱い自分を守れない彼もある種かわいそうで、敵でありながら人間らしく理解できる部分もあります。
嫌いだった点
暴力描写はかなりエグイです。
劇中で結構な人数が殺されますが、どれもこれも生々しいものばかり。
特に差別されているアボリジニたちの扱いはひどいものです。
残酷なシーンだからこそ感情が揺さぶられる部分もありますが、苦手な人にはつらいかも。
見どころ
監督のジェニファー・ケントも言っていますが、今作は「 過酷な環境の中でどのように人間性が保てるか 」というテーマです。
過酷な道を進む中で、お互いの心の闇をさらけ出し、白人のクレアと人間のビリーが心を通わせていく過程は感動的でした。
クレアは白人といえど囚人であり女性。
アボリジニのビリーにおいては白人に見つかるだけで撃ち殺されそうになるような差別を受けています。
はじめは警戒心を抱いていた2人が、徐々に人種を超えて“人間”として認めあっていく様は、暗い復讐の物語を強く希望の光で照らしてくれます。
血みどろで人間むき出しの復讐の末に迎えるラストは、切なくも最高に美しい終わりを迎えます。
復讐の末に2人がたどり着くラストシーンは詩的とも言える最高に美しいものでした。
まとめ
あえて人種や権力といったものを前面に出すことで、それらを取っ払った奥にある共通の"人間“というもの、“人間らしさ“を表現している作品だと感じました。
非合理的で感情に従って進む、そうして失敗する。
実に人間らしいじゃないですか。
「 ミスト 」を見て追い詰められた人間の弱さを楽しめた人なら、「 ナイチンゲール 」も刺さるはずです。