皆さんが「映画館のイメージは?」と聞かれて、真っ先に思いつくのは、大きなスクリーンと迫力のある最新の音響機器、大勢の観客たちの姿ではないでしょうか?
「 ミニシアター 」と呼ばれる小規模な映画館は、スクリーンのサイズや観客席の数、売上に至るまで大手映画館であるシネコン(シネマコンプレックス)には到底及びません。
ミニシアターとシネコンとの比較
ミニシアター
- 1館あたりのスクリーン数:1~2
- 座席数:約100〜200席
- 全国の館数※:約130館
- 上映映画:インディペンデント的な映画
(例:アート系や実験的な映画など)
シネコン
- 1館あたりのスクリーン数:5スクリーン以上
- 座席数:約2,000〜3,000席
- 全国の館数※:約360館
- 上映映画:有名な商業映画
※映画上映活動年鑑2022【GJH 種類別映画館数(サイト数)の変化】より
しかし、そんなミニシアターに足しげく通う熱狂的なファンが大勢いらっしゃいます。
それだけではなく、ミニシアターから発信され映画界に今も残る名作も数えきれないほどあるのです。
今回は、そんなミニシアターの歴史と背景、映画界への影響について掘り下げてご紹介します。
ミニシアターの誕生から現在までの軌跡を知りたい方は、ぜひお読みください。
ミニシアターの起源は1950年代の「 ヌーヴェルヴァーグ 」から
ミニシアターの歴史は、1950年代のフランスから始まります。
当時の若い映画監督たちが従来の映画の作り方に疑問を持ち、新しい枠組みで実験的、芸術的な映画作品の制作をしたのが始まり。
この運動は、「 ヌーヴェルヴァーグ 」(新しい波)と呼ばれ、主に映画批評誌「 カイエ・デュ・シネマ 」に集まった若手映画制作者たちによって推進され、世界中に広がっていったのです。
ヌーヴェルヴァーグの象徴的な作品でもある「 勝手にしやがれ 」(ジャン=リュック・ゴダール監督)は、ハンディカメラの使用、連続性を欠いたジャンプカットの多用、脚本に頼らない即興での撮影などの斬新さが話題を呼び、今でも映画史に残る名作として語り継がれています。
日本での始まりは1968年「 岩波ホール 」
ヌーヴェルヴァーグの影響を受け、日本でも70年代から80年代にかけてミニシアターが増え始め、多くの映画ファンを魅了していきました。
ミニシアターの第一号とされているのは、東京都・千代田区の「 岩波ホール 」だと言われています。
1968年に開館し、2022年7月に閉館するまでミニシアターの先駆となりました。
1970年代からは、日本で公開されることの少なかった地域の海外映画や女性監督による作品、海外では評価されていたが日本では上映されていない名作などを、次々と上映していき、多くの映画ファンに新たな発見と驚きを与えました。
コロナ禍の影響で経営状況が悪化し2022年7月、惜しまれつつも54年の長い歴史に幕を閉じることになりました。
1980年代からはミニシアターブームに
1980年代から2000年代にかけて、日本ではミニシアターブームが起き、多くのミニシアターが誕生。
ミニシアターの増加と共に「 レオン 」(1994年)「 トレインスポッティング 」(1996年)「 アメリ 」(2001年)、昨今ですと「 カメラを止めるな!」(2017年)などの数々の作品が生まれました。
特に若者が多く集まる渋谷では、独特で個性的な映画を上映するミニシアターは、絶大な支持を得て新たな文化的発信地としても注目されるようになったのです。
ミニシアターの現在
独自性と多様性を備えたミニシアターは現在も、映画界で重要な役割を果たし続けています。
下記、表からも分かるようにミニシアターの数は、年々増えている状態です。

画像引用元:映画上映活動年鑑2022【GJH 種類別映画館数(サイト数)の変化】
とはいえ、2005年のシネコンが2022年には、233件→359件と100館以上増加しているにも関わらず、ミニシアターは、107件→136件しか増えていません。
ミニシアターの全国の数は「 頭打ち 」の状態であると言わざる得ないでしょう。
さらに、コロナ禍の影響や動画配信サービスの普及により古い映画も家庭で気軽に鑑賞することができるようになったことで、経営が困窮することも珍しくありません。
実際にコロナ禍以降、ミニシアターは閉館が相次いでいる状態です。
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ミニシアターの未来
ミニシアターが今後も映画界で、インディペンデントな映画を私たちに提供し続けるためには、永続的かつより地域に根付いた存在である必要があるでしょう。
ミニシアターを救うため「 ミニシアター・エイド基金 」などクラウドファンディングによる支援も度々行われています。
もちろん、素晴らしい活動であり実際に、この活動のお陰で閉館の危機を乗り越えたというミニシアターの声もあります。
とはいえ、一時的な支援はミニシアターを救うための根本的な解決にはなりません。
例えば、地域や映画ファンの交流の場として提供する、映画以外のイベント強化、オンライン配信や全国のミニシアターが協力しあい、共通チケットや割引を行うなど、新たな取り組みやアイディアが必要となるでしょう。
新しい映画の名作を失わないためにも、ミニシアターの存続は必要不可欠な要素と言っても過言ではありません。
