大スクリーンで迫力ある映画館もいいですが、古き良き時代を彷彿とさせる「 ミニシアター 」で映画を鑑賞するのはいかがでしょうか?
ミニシアターは、芸術、アート作品など、特定ジャンル&スタイルに特化した小規模映画館。
大衆作品だけではなく、芸術性の高い映画、挑戦的な作品を取り扱うため、一部の映画ファンから熱烈な支持を受けています。
しかし、その定義や歴史、さらにコロナ禍におけるミニシアターの現状について、詳しく知る人は少ないのではないでしょうか。
本記事では、ミニシアターの意義と役割、そしてその魅力について深掘りしていきます。
映画ファンに人気のミニシアターとは?
ミニシアターの明確な定義はありませんが、一般的に「 規模の小さな映画館 」を指し、特定の映画ジャンルやテーマに焦点を当てた作品を上映することが多い。
大手映画館 – シネコン(シネマコンプレックス)では座席数は、2,000〜3,000席ですが、ミニシアターは200ほど。
中には100席にも満たないミニシアターもあります。
スクリーン数も、シネコンでは基本的に5つ以上ありますが、ミニシアターでは1つ、2つほど。
スクリーンサイズも20メートル近いシネコンと比較すると、3×6メートルほどです。
「 迫力のある映画が見たい 」という人には不向きな映画館ですが、それでも熱狂的なファンが絶えません。
大衆受けをする作品を上映するシネコンとは違い、ミニシアターは単にエンターテイメントを提供する場ではないからです。
ミニシアターは芸術性が高いアートフィルムや、新人監督による実験的な作品を上映することが多く、映画業界の新たな才能や作品を発表する場ともなっています。
全国のミニシアターの数は?
※左が館数、右がスクリーン数(2022年度)
一般社団法人コミュニティシネマセンターの調査によると、2022年の映画館の館数は全国で590件。
その内、ミニシアターの数は136件(※名画座・元・既存興行館を含む)となっています。
全国のスクリーン数と比較すると、ミニシアターの割合は10パーセントにも満たないことが分かります。
画像引用元:映画上映活動年鑑2022【GJH 種類別スクリーン数の変化】
ミニシアターと単館系映画館の違い
ミニシアターと単館系映画館の違いについて、疑問に思っている人も多いようです。
ミニシアターの明確な定義がないように、こちらもハッキリと違いがあるわけではありません。
そもそも「 単館系 」とは、大手の配給会社に所属せず、特定の映画館のみで上映される映画のことを指します。
全国のミニシアターがすべてこの条件に当てはまっているわけでないため、「 単館系ミニシアター 」「 単館系やミニシアターなど 」とセットにされることも多いです。
ミニシアターの歴史と功績
ミニシアターの歴史は、映画産業自体の歴史と深く結びついています。
大衆向けのエンターテイメントとしての映画が普及し始めた20世紀初期、多くの映画館は大衆の娯楽を提供するために存在していました。
しかし、映画をただ楽しむだけのものではなく、社会的、政治的なメッセージを伝える重要な手段であることを認識し始めた人々が増えてきたのです。
1960年代頃からフランスのアート映画の影響が世界中に広がり、日本にもミニシアターが誕生しました。
日本初のミニシアターは「 岩波ホール 」
日本のミニシアター第一号は、1968年に開館し、2022年7月に閉館した「 岩波ホール 」だと言われています。
当初は、多目的ホールとして利用されていましたが、日本であまり認知されていない海外の芸術映画の上映も手掛けるようになり、新しい映画の鑑賞スタイルを提案した場所として注目されるようになりました。
岩波ホールでは一カ月に渡り同じ映画を繰り返し上映するスタイルをとっており、「 宋家の三姉妹 」「 山の郵便配達 」は公開後、大ヒット・ロングラン上映されています。
あの名作もミニシアターから火がついた
ミニシアターで上映された映画は度々、全国的な大ブームへと発展することも珍しくありません。
例えば、フランスの映画「 アメリ 」は、魅力的なパリの日常と美しい映像美で大きな話題を呼び、国内外で大ヒットしました。
フランス菓子の「 クリームブリュレ 」をスプーンで叩くシーンを、覚えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
リュック・ベッソン監督の代表作でもある「 レオン 」は、アクション映画の枠を超えた緻密なキャラクター描写と、殺し屋と少女との心に残る交流を描き、世界中の映画ファンを魅了しました。
さらに、日本の映画「 カメラを止めるな!」もミニシアターから火がついた作品の1つです。
この作品は、ゾンビ映画を舞台にしたもので、前半と後半で映画の印象がガラリと変わります。
低予算ながらも、新たな映画作りの挑戦と可能性を見せつけ、大きな反響を呼びました。
実際「 カメラを止めるな!」は前半の上映中に、あまりのクオリティの低さに席を立った観客が何人もいたとのこと。
大手シネコンでは考えられない状況と言えるでしょう。
上記に紹介した作品は、本来であれば大規模な映画館では、上映されず埋もれてしまったかもしれない作品です。
ミニシアターによって広く観客に届けられ、映画文化に功績として残すことができたと言っても過言ではありません。
コロナ渦を乗り越えたミニシアターの今後の課題
とはいえ、大手映画館と比較して集客力が劣るため、経済的に苦戦しているミニシアターも多い。
昨今は新型コロナウイルスの影響もあり、全国のミニシアターが続々と閉館の憂き目にあっています。
関連記事:ミニシアター閉館の連鎖…ニッチな映画作品を守る為に支援すべきこと
実は前述した日本のミニシアターの先駆けである「 岩波ホール 」も、2022年7月に惜しまれつつも閉館することに。
今後、ミニシアターが地域に根付き生き残るためには、映画以外の収入を継続・安定して確保する取り組みが必要になります。
例えば、映画の鑑賞だけでなく観客や地域の人たちとの交流や情報交換の場として解放、監督や出演キャストの舞台挨拶やイベント、展示会など付加価値を付けるなどの取り組みが考えられます。
まとめ
これからもミニシアターは映画業界の一部として多くの名作や監督を世に送り続けてきました。
今度も、映画文化の担い手として、その重要な役割を果たし続けるでしょう。
閉館が続くなか、ミニシアターが抱える経済的な課題は決して小さくありませんが。
しかし、乗り越えることで映画文化がより豊かなものとなることは間違いありません。
海外、ジャンルを問わず映画の多様化と挑戦をし続ける映画界の小さな宝石 – ミニシアターに今後も着目していきたいと思います。