文・ライター:ayahhi
静かに、たしかに移り変わる自然や人を描いた芸術作品のような映画。
見ることで浄化されるような映像は一見の価値あり。
Here
あらすじ
ブリュッセルに住む建設労働者のシュテファンは、故郷のルーマニアに帰国するため、お別れの贈り物として、姉や友人たちに冷蔵庫の残り物で作ったスープを配ってまわっていた。出発の準備が整ったシュテファンは、ある日、森を散歩中に以前レストランで出会った女性のシュシュと再会する。そこで初めて、彼女が苔類の研究者であること知った。足元に広がる多様で親密な世界のように、2人の心はゆっくりと繋がっていく。
原題
Here
公開日
2024年2月2日
上映時間
83分
予告編
キャスト
- バス・ドゥボス(監督)
- シュテファン・ゴタ
- リヨ・ゴン
- サーディア・ベンタイブ
- テオドール・コルバン
- セドリック・ルブエゾ
公式サイト
作品評価
- 映像
- 脚本
- キャスト
- 音楽
- リピート度
- グロ度
- 総合評価
考察レビュー
美しい映像に心が癒されます。
木々の緑の美しさやざわめき、鳥のさえずりをふんだんに取り入れているので、ヒーリング効果が高い映画だと言えると思います。
何か華々しいことが起こるわけではないですが、細部にまで日常へのまなざしが研ぎ澄まされ、吹き込まれているるように感じます。
ちょっとした相手への気遣い、心情の揺れ。
触れ合う人たちの優しさや温かさも感じつつ、気の晴れない現実も同時に進行していることも感じさせます。
中国系ベルギー人のシュシュは、おばさんが切り盛りする中華料理店を手伝いながら、苔の研究にまい進しており、堪能なフランス語を生かして大学教授業もこなしています。
自らのルーツを大切にしながらも、移民先に適応する姿は、幸せそうに見えます。
その充実した日々が、苔の研究に対する好奇心や情熱にうまく作用して好循環を作っているようでした。
一方で、ルーマニアから来た建設労働者のシュテファンは、仕事仲間には恵まれつつも、どこか暗く、孤独で、夜眠れずに徘徊するなどのノイローゼ的な日々を送っているように見えます。
こうしたところに、教育を受け、キャリアを築けるかどうかで、人生の幸福度に現実的に違いが出ることや、その再生産についても物語っていると感じました。
前者はアジア系女性であり、後者は白人男性ですがこの人種の設定も絶妙かもしれません。
もしシュシュが白人女性で、シュテファンがアジア系男性であったら、物語が与える印象はもっと悲壮感に満ちていたかもしれないと想像します。
社会的なメッセージもむろん大切ですが、「移民=悲壮感」として描いてしまうことは、物語に制限を与えてしまうかもしれません。
移民それぞれが持つ生活への想像力が掻き立てられます。
まとめ
都市では、さまざまな立場の人が、各々のルーツを持ち現実と直面しながら日々を過ごしているという事実に迫る映画はめずらしいかもしれません。
暗くならず、しかし能天気にもならず、真摯に現実を見つめようとする姿勢を感じる、おすすめの作品です。