ほっこりした家族団らんストーリーと思いきや大間違い。
「 欲望、狂気、希望 」
家族とは、数々の要素を含む不思議な集団なのだと思い知る異色のファミリードラマです。
ハッピー・バースデー 家族のいる時間
あらすじ
フランス南西部の瀟洒な邸宅で、夫や孫娘と暮らすアンドレア。その70歳の誕生日を祝うため、しっかり者の長男ヴァンサンと映画監督志望の次男ロマンがそれぞれの家族と恋人を連れてやって来る。久々に家族が顔を揃え、楽しい時間が流れる中、3年前に姿を消した長女クレールが突然帰郷。アンドレアが娘を温かく迎える中、他の家族たちは情緒不安定なクレールが突然現れたことに戸惑う。
公開日
2021年1月8日
原題
Fete de famill
上映時間
101分
キャスト
- セドリック・カーン(監督)
- カトリーヌ・ドヌーヴ
- エマニュエル・ベルコ
- ヴァンサン・マケーニュ
予告編
考察・感想レビュー
好きだった点
家族ならではのゴタゴタ、ワガママがユーモラスに描かれている。
「 あるある 」と共感するシーンが多かったです。
本作は家族を描いたものですが、よくある家族ドラマの「 ケンカするけれど仲直り、許し合って皆ハッピー 」のような生ぬるいものではありません。
「 お金、精神の危うさ、権力争い 」など、生々しい家族の内面がしっかり描かれている部分がリアルで面白い。
かと思えば、無邪気な子どもたちは、そんなドロドロに無関心で希望に満ちている。
という対比に救いがあり、好感が持てました。
嫌いだった点
クレール(長女)のヒステリーが見ていて辛くなります。
娘の恋人が黒人であることに差別的な発言をしたり、濡れ衣を着せたりする意地悪さが憎たらしかったです。
ロマン(次男)のクズ男ぶりは、見ていて「 無理!」と声が出るほどです。
そこに情を感じて離れられない知的な美女、ロジータには「 逃げて!」と叫びたくなります。
見どころ
どの役もハマり役だな、と役者の力が感じられる作品でした。
アンドレア(主人公)演じるカトリーヌ・ドヌーヴは、麗しい顔立ちとその貫禄で迷いのなさそうなイメージが強い。
しかし、本作では「 戸惑い、迷い、翻弄 」と、自己犠牲的な母親をうまく演じており、その演技力は天下一品。
特に強烈だったのは、エマニュエル・ベルコ(クレール役)。
その迫真の演技は見もので、嗚咽や顔の紅潮の仕草など、本当に精神が不安定になってしまった人のように見えます。
食卓に自ら頭を打ち付けて流血するシーンは、本当に死んでしまうのではないか?
と思わせる異常さがありました。
融通の利かないヴァンサン(長男)、いい加減なロマン(次男)、不安定なクレール(母)とアンドレアの子供たちのキャラクターはそれぞれ難ありという感じです。
ヴァンサンの息子たちやクレールの娘エマは、不格好に衝突しあう大人たちに比べて、思いやりがあり、愛情深いように思えます。
自分を置いて出ていき3年も行方不明になっていたクレール(母に対し冷たい態度を取りながらも、最終的には母をかばうエマ。
緊迫した言い争いの空気に飲みこまれることなく、純粋にアンドレアを喜ばそうとするヴァンサンの息子たちを見ていていると、
子どもは大人の被害者になってしまいがちな存在だけれども、その真っ直ぐさには不遇な状況を跳ね返す力があるのだなと、
逞しさに心を打たれました。
アンドレアの夫ジャンは実は2人目の夫で、全夫は首をつって亡くなっていますが、その理由については語られません。
クレールがそうであったように、精神的に不安定だったということなのかもしれませんが。
家族ドラマであったならば、そのあたりが物語に大きな影響を与えていそうなものですが、そんな過去はサラっと流しているなと感じました。
それゆえ、ラストシーンのクレールが縄で首を縛る映像をロマンに撮らせるシーンは、父の死に関することは間違いないと思うのですが、その意図が正直よく分かりませんでした。
自分の意見を持たず、妻に従っているジャンが、クレールを精神病院に入院させるか否かで揉めている最中に発した「 妄想のない人生に何の意味があるんだ?」
という言葉は、何を指していたのだろう?
と不思議に思いました。
考えがブッ飛んでしまうクレールをかばう言葉であり、融通の利かないしっかり者のヴァンサン(長男)への諫めでもあるのでしょうか?
普段から口数の少ない彼だけに、意を決して発した言葉がやけに気になりました。
まとめ
愛情も恨みもある、家族という不思議な集団を興味深く描いている作品です。
予告編にあるような「 きっと、家族に会いたくなる 」というよりは、「 家族の奇妙さ、きれいごと 」だけでは片付かないリアルな側面を感じさせる1本でした。