【 スパイ映画を徹底比較 】フィクションvsリアル、それぞれの魅力とは?

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映画「 007 」シリーズでもお馴染みの、イギリスのスパイ組織・MI6の次期長官にブレイズ・メトレウェリ氏が任命されたとの報が入ってきた。

女性のMI6長官は史上初。

地元メディアは「 女性の長官が登場するスパイ映画に現実がようやく追いついた 」などと伝えているが、「 007 ゴールデンアイ 」(1995)から「 007 スカイフォール 」(2012)まで、MI6でのジェームズ・ボンドの上司Mは女性(ジュディ・デンチ)だった。

スパイものはフィクションの定番ジャンルだが、徹頭徹尾フィクショナルな作品がある一方、リアルだったり時代を先取りしている作品も存在する。

今回はよくある典型的な「 フィクションのスパイ映画 」と「 リアルなスパイ事情 」を反映している作品を何作品かテーマごとに比較・紹介する。

目次

典型的なフィクションのスパイ「 アクションヒーロー 」としてのスパイ映画

©GoldenEye

スパイ映画のフィクションにおける典型的なイメージと言えば「 アクションヒーロー 」だろう。

他にもそのようなアクションヒーローが主人公の典型的なスパイ作品は存在するが、「 ミッション:インポッシブル 」シリーズ、「 007 」シリーズ、「 キングスマン 」シリーズは典型的かつ有名な例だろう。

「 ミッション:インポッシブル 」のイーサン・ハント、「 007 」シリーズの007/ジェームズ・ボンド、「 キングスマン 」のガラハッド/ハリー・ハートはいずれも超人的な身体能力を持ち、クライマックスでは最終的に彼らの戦闘能力が問題を解決する。

これらの作品で描かれているのは典型的なフィクションのスパイである。

実際の諜報活動はもっと地味で、現実のスパイにとって戦闘はあくまでも最終手段である。

スパイの鉄則「 逃げろ、隠れろ、その場のものを武器にしろ 」

現実のスパイにとって諜報活動で危機が訪れた際の優先順位は、

  • 逃げる
  • 隠れる
  • 戦う

である(参照・「 近現代 スパイの作法 」(落合浩太郎監修:GB))。

戦うのは最終手段であり、熟練したスパイならその鉄則に従ってピンチの際はまず逃げるはずである。

ジェイソン・ボーン 」シリーズの主人公、ジェイソン・ボーンは手練れの工作員複数人を瞬時に叩きのめせるほどの戦闘能力を持っているが、彼がピンチのときに真っ先に選択するのは「 逃走 」である。

「 ボーン・アイデンティティー 」(2002)では、館内図から館内の構造を把握して逃走ルートを計算し、アメリカ領事館からの脱出に成功する。

「 ボーン・スプレマシー 」(2004)ではベルリンの街中をデモ隊に紛れて逃走し、「 ボーン・アルティメイタム
」(2007)ではウォータールー駅の監視カメラの動きと位置を把握し、CIAから逃げ切った。

ボーンは戦うとき、雑誌やペンなどその場にあるものを武器にしていたが、これも現実の諜報の世界で用いられるテクニックである。

スパイは常に大掛かりな武器を持っているわけではないため、その場にあるものや手に入るものを武器にすることも重要なテクニックなのである。

TVシリーズ「 バーン・ノーティス 元スパイの逆襲 」の主人公、マイケル・ウェスティン(ジェフリー・ドノヴァン)は度々ホームセンターで手に入れた材料で武器を作っていたが、現実のスパイもホームセンターで手に入れた材料で武器を作ることがあるらしい。

「 現地調達 」はスパイの必須スキルなのである。

地味すぎる現実の諜報戦

現実の諜報の世界の基本は、

  • まず偽りの身分で重要な情報を持っていそうな人物に接近
  • その人物が重要な情報を持っているか値踏みする
  • その人物と仲良くなる
  • スパイであることを明かし、脅迫する、買収するなどの搦手で協力させる

である。

そこにイーサン・ハントやジェームズ・ボンドのようなアクション、バイオレンスが介在する余地はない。

現実の諜報活動について詳しく知りたいなら、元CIA局員のロバート・ベアのノンフィクション「 CIAは何をしていた? 」(新潮社)を読んでいただくのが一番よいと思うが、同書を原作にした「 シリアナ 」(2005)を見るのも悪くない選択肢である。

「 シリアナ 」に派手な戦闘シーンは一切ない。

同作に登場するボブ・バーンズ(ジョージ・クルーニー)は原作者のベアをモデルにしたキャラクターだが、髭面で日焼けして小太りの冴えない中年男性である。

劇中の地味な姿はジョージ・クルーニーのパブリックイメージと大きく異なる。

上映開始からしばらく、彼がクルーニーだと気付かなかった観客も一定数いるのではないだろうか。

諜報戦の世界で「 目立たない 」は重要なポイントになる。

そのため、スパイ映画もリアルを追及すると「 裏切りのサーカス 」(2011)のように地味なオヤジたちがシリアスな顔をしてボソボソ喋っている場面が大半を占めるような作品になりがちである。

実話をもとにした「 ブリッジ・オブ・スパイ 」(2015)に登場するルドルフ・アベル(マーク・ライランス)は実在のスパイだが、そのあたりにいそうな普通のおじさんである。

アベルは実在の人物かつ近代の人物なので写真が残っているが、マーク・ライランスはなかなかの再現度だ。

一般的なイメージのスパイの姿とは大きく異なるが、これはこれで正しいのである。

スパイと偽りの絆

アニメ、マンガの双方が人気の「 SPY×FAMILY 」は、典型的なフィクションのスパイ作品である。

主人公の黄昏/ロイド・フォージャーはイーサン・ハントやジェームズ・ボンドも真っ青なレベルの戦闘能力を持ち、変装の達人である。

同作で黄昏はミッションのために、実は殺し屋のヨル・フォージャー、超能力者のアーニャ・フォージャーと偽りの家庭を築くが、このような偽りの家族、夫婦、カップルもおそらくは典型的なフィクションのスパイ作品によく見られる設定だろう。

「 アベンジャーズ 」の一員であるブラック・ウィドウ/ナターシャ・ロマノフ(スカーレット・ヨハンソン)を主人公にした「 ブラック・ウィドウ 」(2021)にナターシャのスパイ時代の「 家族 」たちが登場したが、ミッションのための偽りの家族である。

これらの作品のように、ミッションのためにスパイが偽りの家族を演じる例は現実にも存在する。

ドナルド・ヒースフィールド(本名:アンドレイ・ベズルコフ)とトレイシー・フォーリー(本名:エレーナ・ヴァヴィロフ)夫妻が2010年にスパイ容疑で逮捕される事件があった。

ロシアの情報機関SVRの諜報員だった2人は20年以上アメリカに潜伏し、2人の子どもたちは、両親が逮捕されるまでスパイであることを知らなかったそうだ。

彼らはTVシリーズ「 ジ・アメリカンズ 極秘潜入スパイ 」のモデルになっている。

映画「 マリアンヌ 」(2016)も実話がもとということになっている。

第二次大戦下、工作員のマックス・ヴァタン(ブラッド・ピット)とマリアンヌ・ボーセジュール(マリオン・コティヤール)が任務のため偽りの夫婦を演じるうちに次第に惹かれ合い、作戦終了後に正式に結婚。

しかし、妻に二重スパイ疑惑が向けられ…というのが同作の内容で、いかにもフィクション的なストーリーだが、この物語は同作の脚本家であるスティーヴン・ナイトが若い頃アメリカを旅行したときに友人のおばさんから聞いた、

友人のおばさんの兄弟の実体験がもとになっているらしい。

かなり込み入った伝聞であるため本当に実話であるかどうかはかなり疑わしいところだが、実話だったらまさに「 事実は小説より奇なり 」である。

執筆者

文・ライター:神谷正倫

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