90年代半ばのLAのスラム街。
少年が「 男 」になるための痛々しい通過儀礼。
その先にあるのものは成長なのか?
堕落なのか?
エンドロールを微笑んで見つめる良作です。
mid90s ミッドナインティーズ
あらすじ
1990年代半ばのロサンゼルス。シングルマザーの母、兄と暮らす13歳の少年は、力の強い兄に怯えながらもいつか見返そうとしていた。そんなある日、街のスケートボードショップで年上の少年らと出会った彼は、彼らの自由奔放さに憧れて仲間に入れてもらおうとする。
公開日
2020年9月4日
原題
Mid90s
上映時間
85分
キャスト
- ジョナ・ヒル(監督)
- サニー・スリッチ
- ルーカス・ヘッジズ
- ナケル・スミス
予告編
感想レビュー
好きだった点
13歳の少年の早く大人になりたいという、もがきと悲惨さが、愛おしさや救いと共にに描かれており心が満たされます。
主人公のスティーヴィーが背伸びをして、自我を出し心身共にぶん殴られながらも、友情や信頼を勝ち取っていく様はシンプルに尊い。
主人公演じるサニー・スリッチは、実はプロのスケーターです。
ということは、役柄上、わざとスケートボードをヘタクソに滑ってたいた?(信じられない)
「 過ぎ去ってしまった青春時代の話 」にとどまらず、仲間との関係性や真摯に努力することの意義や誘惑との闘いなど、大人になった今の自分にも大いに響いてきます。
よって、鑑賞するというよりは、自分もこの作品と一緒に歩むような感覚で見られるのではないでしょうか。
嫌いだった点
スラムの治安の悪い雰囲気やカルチャー演出のため仕方ないが、一部女性を見下した描き方をしているので、不快に思う人もいるかもしれません。
見どころ
最初はあどけない少年だった主人公が、スラムの仲間とツルみ、大人の顔つきになっていくその変遷( へんせん )は、母として見てしまいます(女性に限った話ではないはず)
単純に「 悪い世界にはまりこむ 」のではなく、やられっぱなしの「 弱い自分を変えてやるんだ 」という野心と勇気、人に認められたいという純粋な成長意欲。
あるいは、心ある仲間との信頼関係や歩みよりといった、ポジティブさをギリギリ失わずにいる点が、青春映画としての爽やかさと好感に直結していると感じました。
四六時中カメラを手にする映画監督志望の4thGrade。
彼の隠れた才能がラストで存分に発揮される点が痛快!
案外、彼が最も真実を見抜いているのかもしれません。
考察・疑問点
主人公の家庭には父親がいません。
今は保守的な母親(18歳の時、すでに兄を産んでいたことは確か)が、かつては男をとっかえひっかえ家に連れ込んでおり、
年の離れた兄が主人公を見ていられない程、殴る冒頭シーンとは対照的に、
兄弟でファミコンをしている最中、兄が「 お前が生まれて母さんは真面目になった 」と弟に打ち明けるのですが、弟が生まれたら改心するなんて納得いかないでしょう。
母親は主人公と頻繁に話をするのに、兄に対しては悪者と決めつけて怒鳴っていた印象。
兄もまた傷ついていたのでは?
弟が憎いというよりは、嫉妬めいた感情ゆえの暴力だったと思う。
終盤、交通事故で大ケガをして病室に横たわる主人公に、オレンジジュースを飲ませてあげるシーンは泣けます。
兄がそれまで自分1人で飲んでいた1ガロンのオレンジジュースは「 自分の殻に閉じこもる 」象徴だったのでは?
暴力的に接してきた弟を失うかもしれない状況で、彼は弟・母・自分をどのように捉えていたのでしょう。
プロも認める腕前を持ち、人間的にも大人であるレイ。
かつて弟を交通事故で亡くしており、失った弟を主人公に重ね合わせる気持ちもあっただろうと思う。
殴り合いやスケートボードによるケガなどで負う外傷、内面的な心の傷との両方が交錯する「 痛み 」の多い作品だったと思います。
まとめ
青臭さにとどまらない、大人にも身に染みる人間臭さのある青春映画。
音楽もクールで最高。
タフな男としての「 成長 」と、酒やドラッグに溺れる「 堕落 」というトラップが背中合わせの世界で、その間をゆらゆらと危なっかしく行ったり来たりする。
スケートボードに乗ってゆらゆらと坂道を蛇行する彼らの姿が重なります。