青いカフタンの仕立て屋
あらすじ
伝統衣装カフタンの仕立屋をモロッコで営む夫婦。ある日、夫婦は若い職人を助手として雇うも、妻は夫と職人の間に師弟関係を超えた特別な感情を抱くようになる。
原題
Le bleu du caftan
公開日
2023年6月16日
上映時間
122分
予告編
キャスト
- マリヤム・トゥザニ(監督)
公式サイト
作品評価
- 映像
- 脚本
- キャスト
- 音楽
- リピート度
- グロ度
- 総合評価
考察レビュー
冒頭の青い生地を指でなぞるシーンから、官能と優しさを感じるように、映画全体を通して物事をいつくしみ、愛おしみ、大切にするというスピリットが感じられる良作です。
病床の死期せまる中気丈にふるまうハリムの妻、ミナが知人の葬儀を見てつぶやくひとことから、ラストは予想がつきますが
予想通りのラストであっても、やはり観客を涙させる深い夫婦愛、人間愛を感じます。
また、病床の妻ミナを演じた女優・ルブナ・アザバルさんはその意志的な瞳にくぎ付けになったかと思えば、病によって目をそむけたくなるほど弱々しい出で立ちも完璧に演じており監督が連続して彼女を起用するのには心底納得する、とてもいい俳優さんです。
モロッコでは同性愛がタブーとされており、場合によっては罰せられるという環境です。
そんな世界で、自分を偽らずに生きるなど至難の業です。
モロッコ出身で、「モロッコ、彼女たちの朝」でも同性愛を描いた監督・マリヤム・トゥザニ氏が語るように、多くの人は自らを偽り、世間に同調するのが現実。
しかし、そんな生き方は、自らも、自らの愛する人も傷つけることにもなりえます。
愛する人には、偽りのない自分のありのままを差し出す。
たとえそれがハードルの高いことであっても、それを諦めない。
そんな強い意志と、それを受け止めるやさしやと逞しさを描いている作品です。
自身を産んだ際に母が亡くなったために父親に責め続けられた過去をミナが救っていたこと、ハリムへの愛により自らの成長を遂げた若き才能ユセーフ、ミナとユセーフに人生を肯定されるハリム、と、辛い思いを経ながら互いが互いを愛おしみ、リスペクトしあう姿勢には自然と涙がこぼれます。
加えて、戒律の厳しいモロッコの宗教・文化において、「自分らしくあること」の尊さを訴えた、既存の価値観へのカウンター映画の側面も大いにあると感じ、勇気づけられます。
決してハッピーエンドではなく、深い悲しみもあり、前途多難に違いないのに心が温まり、希望をもたらしてくれる一本でした。