「 あなたの国では 」小手鞠るい著(さ・え・ら書房)

当ページの画像はIMDbまたは公式サイトより引用
  • URLをコピーしました!

街に出ると卒業式の袴を着た人を見かけるようになりました。今日は、卒業や入学の時期にぴったりの本をご紹介します。その理由は最後にお伝えしますね。

「 あなたの国では 」小手鞠るい著(さ・え・ら書房)です。「 私たちの国では 」卒業式に袴の衣装を着る人が多いですね。「私たちの国では」卒業式に袴の衣装を着る人が多いですね。

最近では小学校の卒業式も袴です。このように、どこの国にも、そこにしかない文化や常識があります。

小手鞠るい(こでまり・るい)
1956年岡山県備前市生まれ。同志社大学法学部卒業。1992年からニューヨーク州在住。一般文芸、児童書、共に著書多数。本作に登場する有海旅人さんと同じで、旅が大好き。初めての外国旅行は24歳のとき、弟といっしょに訪ねたパリとウィーン。以後、旅をした国は、オーストラリア、シンガポール、香港、タイ、インド、インドネシア、フィリピン、スリランカ、スペイン、ポルトガル、ギリシャ、イタリア、アイルランド、トルコ、イギリス、スコットランド、モロッコ、メキシコ、コロンビア、ペルー、コスタリカ、エクアドル、グアテマラ、ニカラグア、ドミニカ国など。夢はアメリカ五十州をすべて旅すること。アフリカ大陸へ行ってライオンを見ること。趣味は登山とランニングと園芸。

目次

あらすじ概要

海をこえ、大陸をわたり、国境をこえ、世界の各地に住む人々に会いに行く主人公がインタビュアー。男女差別から、ジェンダー、LGBTQ、地球温暖化、環境保護、動物愛護、戦争と平和まで。17人へのインタビューを通して見えてくる、17つの「現実(リアル)」と、地球の「今」。アメリカに住み、世界各国を旅してきた著者が描く、世界をめぐる壮大なインタビュー・ストーリー。

アームチェアトラベラーに変身

主人公がインタビューをする人は日本の小学生に始まり、インド、コンゴ共和国、ギリシャ、アメリカと実に様々なところの人です。そこで「 あなたの国 」の特徴を聞きます。

この本を通して、私達は椅子に座りながら、はるか遠くの国のことを知ることができます。では「 あなたの国 」の何が語られているのでしょうか。全章を通じて言えるのは語り手は「 自分の国 」を語る時に、その国をちゃんと理解していること。

同時に彼らはそれぞれが持つ宗教の深い意味も知っています。人口が何人で、名産物は何で、などそのようなことは語りません。自分の国を外国人に語るということは、自国の歴史と宗教を知っていないといけないのだということが分かります。

インタビュアーは紹介をたどって徐々に遠い国を訪ねていくなかで、歴史と宗教が深い国民性へとつながっていることが分かってくるのです。著者が思っている疑問、読者に提示する課題は、SDGsと重なる部分が見えてきます。

著者は常に社会問題に強い意識を持った人であるといえるでしょう。まずは最初の章で、日本の現代の教育への疑問を提起しています。「 これは違うんだけどなあと思いながらも、テストで満点を取るためには、本音とは違う答えを書かないといけないのか。」(P.15より引用)

これを一番最初に持ってきた構成が「 小説家 」だと思わせます。

エッセイ風に書いているように見えますが、ちゃんとプロットが組み立てられている一遍の小説なのです。このセリフは、現代の日本が抱える「 同調圧力 」への疑問に通じます。違うと思っているけど、みんなと同じにしておけば間違いはないから、異義は唱えないでおこう。

あるいは異議は唱えてはいけないという風潮です。異なる意見から新しいものが創造されていくというのに、これではこの国、つまり日本からイノベーションは生まれませんよね。

そのような疑問を読者に感じさせる導入をしてから、まず、私達の国の歴史を紐解くのです。

たった2文でノックアウトされた

12歳の少年の後に、同じく日本95歳の女性が登場し、戦争について語ります。戦争はいけないと説き、しかし明るい未来のために必要なことを話します。

「 子どもたちは虹色の卵。たいせつに温めなあかん。卵がかえったら、どんな色の羽を持った、どんな鳥になって、世界へ羽ばたいていくのか。」(P.22より引用)

95歳のおばあちゃんが、このように詩的な言葉で未来の宝を表現できるだろうか。いや、この年まで生きてきたからこそ言える言葉なのだろうか。筆者は、この著者が「 小説家 」だから生み出すことのできた文章だと思います。

虹色の卵など存在しません。しかしその卵から様々な色を持つ鳥が生まれ、世界へ羽ばたいていくことが想像できる名文です。この2文には、未来の子どもが「 多様性 」を持って生きていく願いが隠されているのです。

美しい言葉の中には、実は現代が抱えた問題が隠されている。最近、なかなかそのような文章に出会っていなかったので、痺れました。たった2文で、この本のテーマを表現してしまう。このような本に若いうちからたくさん触れてほしい、心からそう思いました。

さて、12歳の日本の少年は今の教育に疑問を持っていますが、他の国で登場する人物たちは皆、明確な夢があり、人と違う意見を主張します。自分の国、そしてその歴史と文化から生まれた国民性についてまで話してくれます。

日本人はとても幼く思えます。そう、私たちは虹色の卵からかえったばかりのひな鳥なのかもしれません。さてこの後、登場するのは14人。特にトルコの16歳の女の子のお話を読んでほしいので、詳細は書きません。

あなたたちがこれからどのような鳥になってどこへ行きたいか、それを考える一冊。卒業、入学、就職、と次のステージに上がる皆さんにぜひこの本を送ります。

執筆者

文・ライター:栗秋美穂

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

この記事をシェア
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

Official Note

目次