痛みを抱える男女ふたりの科学反応による人生の再生劇に、心がじんわり温まる。
世界は捨てたものじゃないと信じられる良作。
パリの調香師 しあわせの香りを探して
あらすじ
かつて、世界中のトップメゾンから依頼が殺到した天才調香師のアンヌ。しかし極度のプレッシャーから嗅覚障害になった彼女は、その地位を失ってしまう。嗅覚こそ戻ったものの、以降アンヌは役所からの依頼など地味な仕事だけを受けて、高級アパルトマンでひっそりと暮らすようになる。そんな彼女に専属運転手として雇われたギヨームは、離婚調停中で娘の共同親権を得るために新しい仕事を必要としていた。人付き合いが苦手なアンヌは、高慢な彼女の態度に反感を募らせるギヨームと衝突しながらも一緒に仕事をこなしていく。
公開日
2021年1月15日
原題
Les Parfums
上映時間
101分
キャスト
- グレゴリー・マーニュ(監督)
- エマニュエル・ドゥヴォス
- グレゴリー・モンテル
- セルジ・ロペス
予告編
考察・感想レビュー
好きだった点
天才調香師アンヌの不器用さを運転手ギヨームが受け止め、次第に互いに心を開いていく様子に心が温まります。
安易にふたりが男女の関係になってしまうのではなく、互いの辛さに理解を示しながら、信頼関係を育んでいく点が、よくある恋愛作品とは一線を画している。
アンヌが調香師の仕事をする中で語る「 嫌な香りは消すのではなく、違う香りと組み合わせることで良さが引き出される 」というセリフは、
まるで人間関係そのものを指しているようで非常に興味深かったです。
嫌いだった点
違和感を感じた点としては、「 調香師として価値ある仕事は有名ブランドの香水の仕事のみである 」かのような描き方です。
感動的なラストシーンでも、アンヌがこだわるのはやはり有名ブランドの香水の仕事。
せっかくギヨームとの触れ合いの中で心を開き、新たな自分になったわりには、地位や名誉というステータスには縛られたままなのだなと感じました。
アンヌの代理人が探してくる調香師の仕事は、調香師ならではの嗅覚と化学反応の知識を生かして、悪臭に悩まされる住環境を改善したり、洞窟の香りをテーマパークに出現させたりと。
ユニークで社会的な価値が高く、可能性に満ちた仕事だと感じます。
しかし、アンヌはこうした仕事をさげすみ、嫌々やっているのです。
もちろん有名ブランドの香水を手がけることは素晴らしいけれど、それ以外の仕事があたかも「 調香師として負け組の仕事 」という語られ方をしていたように感じて残念でした。
世界には数百人の調香師が存在しているそうで、その中でも、香水の仕事をする人はほんの一握り。
その他の人たちの仕事のほうがむしろ興味深いと感じました。
「 ブランド 」という価値にこだわるのも悪くはないです。
調香師という職人と芸術家と科学者が共存するような魅力的な仕事を、これからの社会をよくするためにという視点で語ることができたら、もっと素敵だなと感じました。
見どころ
全体を通してラブシーンはないのにもかかわらず、恋の香りともいうべき雰囲気が漂っている点。
アンヌは自分にはないバイタリティーや愛情深さを持っているギヨームを憎からず思っている。
ギヨームも、アンヌへの尊敬の念や、力になりたいという思いを持っている。
一緒にいる時間も長いし、共に仕事をする中で互いが惹かれ合っているのは間違いない。
だからといって、すぐに男女関係になるわけではない。
そうかと思えば、嗅覚障害に悩むアンヌのもとに現れる名医・バリェステルとの関係もやはり恋の気配があり、それに嫉妬するギヨームという描写もあり、
その様子はいじらしく、微笑ましいものです。
アンヌがギヨームを運転手だけでなく、調香師としての才能があると見抜き、それを生かそうとする点も新鮮。
裕福な中年男性が、若い女性の才能を見出し援助する、というのはよくある展開です。
裕福な中年女性が、生活に困った中年男性の才能を開花させる。
本作のこの描き方は斬新でした。
ラストシーンで別人のように、頼りがいのある風貌になったギヨーム。
人は自分を生かす仕事をすると、グンと魅力的なオーラを出すという表れだったと思います。
何かと危なっかしいけれど、愛情深いギヨームがなぜ離婚に追い込まれたのかが不思議です。
それほどにパートナーシップはデリケートだということも描いていたのでしょうか。
まとめ
天才的な能力を持ちながらも人付き合いが苦手なアンヌと、人づきあいは得意だけれど仕事で失敗してばかりのギヨーム。
彼らが互いを補い合って未来へ向かう希望のある話でした。
「 これは映画だから 」と思わず、自分の人生にも身近に起こることだと意識しながら見てほしい1本です。