戯画化されたファンタジーとしてのおもしろさ

もう1本の「 ウイークエンド 」だが、個人的には今までに見たゴダール作品の中で一番おもしろかった(ちなみに邦題は「 ウィークエンド 」ではなく、あくまでも「 ウイークエンド 」だ)。
その主な理由は、「 はなればなれに 」について書いたことの裏返しといっていい。
この作品は「 戯画化されたファンタジー 」であることが、最初から明示されているのだ。
ある夫婦が遺産相続の問題で妻の実家へ向かう週末の様子を描いたロードムービー。
しかしその過程で出くわす光景は、「 そんなわけないだろ!(笑) 」と言うほかない悪夢的ファンタジー、またはグロテスクコメディだ。
至るところで車が事故を起こし、血みどろの死体が転がっていたりする。
だから登場人物の言動が日常的リアリティからかけ離れていても、最初からファンタジーだと分かっているので、素直に受容し楽しめる。
この映画の登場人物はゲームのキャラクターのようなものだ。
リアルな人間ドラマなどはなから存在せず、観客のアバターのような存在として、奇怪なアトラクションの中を旅する役割を果たす。
おもちゃ箱を引っ繰り返したように楽しい「 ウイークエンド 」
延々と続く渋滞を長い横移動で捉えた序盤のシーンでまず引き込まれる。
もちろん現実的な渋滞ではなく、風刺漫画のような滑稽な描写が延々と続く。
その後も、あの手この手のバカバカしく風刺的なアイデアのてんこ盛り。
他の観客は皆真面目に見ていたが、これは笑いながら見るべき完全なコメディと言っていいだろう。
遥か昔から本作については「 物質主義社会に対する風刺 」という解説を聞いていた。
それも重要ではあるが、あくまでも一つの要素に過ぎない。
ナンセンスギャグ、アクション、社会主義、メタ映画、果ては食人族まで、まさにおもちゃ箱をひっくり返したかのような賑やかさだ。
実にバカバカしくて楽しい。
ラストの政治的アジテーションは残念だが…
ただ残念なのは、終盤になって政治的アジテーションが続くこと。
それが一要素として並ぶならともかく、これまでのまとめのように回想シーンがかぶさってくると「 え?あの悪夢的なコメディファンタジーは、こんなアジテーションをしたいがためにあったの? 」と、豊かなイメージが急速に矮小化されてしまう。
それさえなければもっと絶賛していたのにと惜しまれる。
だがその欠点を差し引いても、これまでに見たゴダール作品中では一番おもしろかった。
「 はなればなれに 」とあわせてゴダール映画のおもしろさとつまらなさを、かなり明確に分析できて大いに満足。
初めてゴダールを心の底から楽しめる、充実した体験だった。

文・ライター:望月正人