
世界的作家が復讐の炎を燃やすとしたら、凶器は言葉。
小説が生を生み出すのならば、死を生み出すこともできるのか。
今作の良い点と、問題点を記します。
画像の引用元:IMdb公式サイトより
(アイキャッチ画像含む)
天の怒り


公開日
2022年6月15日
原題
The Wrath of God
上映時間
98分
キャスト
- セバスチャン・シンデル(監督)
- ディエゴ・ペレッティ
- フアン・ミヌヒン
- マカレナ・アチャーガ
予告編
公式サイトを参照
公式サイト
作品評価
- 映像
- 脚本
- キャスト
- 音楽
- リピート度
- グロ度
- 総合評価
考察レビュー


作家の新作発表会の会場で、ある女性が三階から飛び降りるというショッキングなシーンから始まります。
見どころは、先を読ませない物語の進め方です。
黒幕かいるのかいないのか、不幸の連鎖は偶然なのか。
妄想と事実が、天秤のようにバランスをとっていました。
セクハラを受けて助手を辞めたルシアナと、それが引き金となって妻子を失った作家のクロスター。
どちらの視点で物語を眺めるかによって、事実はくつがえされます。
不可解な出来事は不可解なまま、真相は明かされないまま、という作り方が視聴者の自由度を高めていました。
タイトルを考慮すると、クロスターが黒幕で、ルシアナが彼の完全犯罪のような嫌がらせに追い詰められていくという構図が、自然のような気もします。
クロスターは直接、手を下さずに、第三者を手紙などの言葉を用いて、巧みに操ります。
まるで、邪教のグルのように。
しかも、世界的な作家でもあるため、誰も彼を疑うことをしません。
ルシアナが精神的に不安定な女性として描かれているので、全ては彼女の過剰な思い込みかもしれないという可能性も残されます。
問題点は、カタルシスが得られないこと。
ジワジワと、ネチネチと、持たざる者が追い詰められていき、観たあとに不完全燃焼感が残ります。
「 セブン(1996)」
「 ミスト(2008)」
のような名作には及びませんが、後味の悪さという点において、系統は似ているでしょう。
原作は、アルゼンチンの作家ギジェルモ・マルティネスの「 ルシアナ・Bの緩慢なる死 」
絶版で希少価値がついているので、安価な電子書籍で求めるか、図書館で探してみても良さそうです。
ラストシーンで冒頭に戻り、私たちは同じ惨劇を目撃します。
しかし、衝撃の度合いはどうでしょう。
驚愕、憐れみ、恐怖、諦め。
もし始まりと終わりで違った感情がわき起こるのだとしたら、変わったのは私たちの側なのです。


まとめ


陰湿でジメジメとした雰囲気の今作は、アルゼンチン映画。
言葉に操られ、作中、放火や殺害に及んだ狂気の第三者。
どうしても、日本で起こってしまったテロ事件を連想してしまうのでした。