今回は、ペンネーム@やらずのさんからの投稿レビューです。
今作は20世紀初頭のアメリカを舞台とした西部劇であり、ヴェネチア国際映画祭にて銀獅子賞を受賞。
「 ドクター・ストレンジ 」「 モーリタニアン 黒塗りの記憶 」でも馴染みのベネディクト・カンバーバッチを主演に据え、
緻密な脚本と雄大ながら硬派な自然の映像美、どこか不安を掻き立てるような音楽で魅せる。
画像の引用元:IMDb公式サイトより
(アイキャッチ画像含む)
パワー・オブ・ザ・ドッグ

公開日
2021年11月19日
原題
The Power of the Dog
上映時間
128分
キャスト
- ジェーン・カンピオン(監督)
- ベネディクト・カンバーバッチ
- キルステン・ダンスト
- ジェシー・プレモンス
予告編
公式サイト
作品評価
- 映像
- 脚本
- キャスト
- 音楽
- リピート度
- グロ度
- 総合評価
感想レビュー

面白い作品というのは、映画に限らず意外と数多く存在します。
しかし、凄みのある作品、見ている私たちを圧倒するような強い意志のある作品というのは、そうそう巡り合えるものではありません。
今作はまさにそういう作品でした。
現代から見れば時代錯誤な「 悪しき男性性 」を振りまく主人公(フィル)と、彼とは対照的に「 お嬢ちゃん 」とからかわれる弟の妻の連れ子であるピーター。
当初は嫌悪を露わに辛辣な態度を取るフィルですが、徐々にピーターとの間に師弟のような友情関係が芽生えていきます。
しかし、物語は急転。
まさかの結末を迎えて幕を閉じました。
全体の流れと結末をざっくり言うと、「 悪しき男性性 」を振りまくフィルが中性的なピーターに打倒されていくミサンドリー(男性性嫌悪)的な物語のようにも見えます。
しかし、物語が進むにつれて垣間見えていくフィルの過去は、今作が単純なミサンドリー的物語でないことを示します。
というのも、フィルの「 悪しき男性性 」は、かつて恩人であるブロンコ・ヘンリーとの間に起きた出来事への愛と苦悩、誰にも話せないゆえに理解されないという孤独感との戦いであることが示唆されるからです。
フィルは心身が引き裂かれる悲痛さを誤魔化すため、男性性という鎧をまとう他になかった。
その意味で彼もまたアイデンティティを犯されたジェンダーの被害者と言えるのかもしれません。
フィル・バーバンクという男の静かで壮絶な悲鳴は、見る者を切りつける鋭いナイフのようであり、あるいは縄でジリジリと締め上げるような名状しがたい余韻を与えてくれました。
まとめ

全編を通してどこか居心地が悪く、漠然と不安を感じるような今作。
巧妙に仕掛けられる伏線は見事ですし、カンバーバッチの演技は見事の一言。
淡々と物語が進んでいくことも、フィルの抱える痛みの輪郭をよりいっそう明瞭で切実なものへと昇華させていました。
もし、たった独りでも彼の苦悩に寄り添える者がいたならば。
救いなきフィルの人生の結末に、そんな願いを手向けたく思います。