
イギリス社会が抱える格差や移民問題。
さまざまな社会問題を盛り込んだ社会派のサスペンススリラーである今作。
ポスターで大きく佇む怪しい老人は、スリラーの名作「 ドント・ブリーズ 」を匂わせます。
画像の引用元:IMdb公式サイトより
(アイキャッチ画像含む)
アイ・ケイム・バイ


あらすじ
公開日
2022年8月19日
原題
I Came By
上映時間
110分
キャスト
- ババク・アンバリ(監督)
- ジョージ・マッケイ
- パーセル・アスコット
- ケリー・マクドナルド
- ヒュー・ボネヴィル
予告編
なし
公式サイト
作品評価
- 映像
- 脚本
- キャスト
- 音楽
- リピート度
- グロ度
- 総合評価
考察レビュー


スリリングな作品かと思いきや、展開はなかなか単調。
貧困家庭に生まれ、格差社会に不満を抱くトビーとジェイは金持ちの家に忍び込み、壁にスプレーアート“I CAME BY(「参上」の意)”を描くことで、
小さな反抗を繰り返しているのですが、貧困や格差といった描写に切実さやエグさはありません。
もちろん描かれない部分で切実な社会問題となっているのは確かなのでしょうが、言ってしまえば必要以上に持っている金持ちを妬んでいるだけ。
筆者は「 若さゆえの自分は特別感と社会への鬱屈とした感情 」という感触がどうしても拭えませんでした。
移民問題についても、差別や排他的な感情を描こうとしている気配は感じられますが、老人の動機がごく個人的でプライベートな復讐に収束してしまっているので、
やはり映画としてその問題の切実さを訴えるには不足が目立つ仕上がりだったと思います。
色々な要素を盛り込んだ結果、序盤がやや助長になり、後半駆け足で物語を畳む感じになってしまっていたのも残念なポイント。
“I CAME BY”のグラフィティアートも冒頭のつかみで出てくるだけで、特に物語のなかで重要なカギになるわけでもないですし、もったいなさが募ります。
また今作は直接的な暴力描写やグロシーンがほとんどないので、もうそっちのエンタメに全力で振ってしまってもよかったように思います。
テーマややろうとしていることと作品やストーリーが見事に嚙み合っていない――
どうしてもそんな印象を受けてしまい、テーマや各要素は重大で面白いはずなのに非常に惜しいと感じる作品でした。
まとめ


ここまで辛辣なことを書きましたが、物語を展開していく上で軸となる人物がどんどん変わっていく構成などは斬新で、意欲的な作品だったのかなとは思います。
一矢報いたにしては払った犠牲があまりに大きすぎ、まったくもって救いのない結末も、現在の苦境を変えることの困難さや社会に気づかれることもなく抑圧されて消えていく人々の存在などを予感させるもので、
この世界の残酷なリアリティを象徴していると解釈できるように思います。
よかったというのは少し憚られますが、作品として好感を持てるエンディングでした。