「 エイブのキッチンストーリー 」考察レビュー、「 食 」の魅力が余すことなく描かれる
映画ライフ楽しんでますか?
今回は、ペンネーム(@ayahhi)さんからの投稿レビューです。
パレスチナ系とイスラエル系の両親の元、NYで育つ多様性ど真ん中の少年がもたらすアイデンティティの確立と人間の成長の物語。
画像の引用元:IMDb公式サイトより
(アイキャッチ画像含む)
エイブのキッチンストーリー
公開日
2020年11月20日
原題
Abe
上映時間
109分
キャスト
- フェルナンド・グロスタイン・アンドラーデ(監督)
- ノア・シュナップ
- セウ・ジョルジ(ミュージシャン)
予告編
公式サイト
作品評価
[rate title=”五つ星”]
[value 4.5]映像[/value]
[value 4]脚本[/value]
[value 5]キャスト[/value]
[value 5]音楽(BGM)[/value]
[value 4]リピート度[/value]
[value 3]グロ度[/value]
[value 4.5 end]総合評価[/value]
[/rate]
エイブのキッチンストーリー(感想レビュー
好きだった点
きつね色にカラッと食材を揚げたり、新鮮な野菜をシャキシャキと刻んだり。
料理の映像と音が気持ちよく、「 食 」の魅力が余すことなく描かれています。
監督がインタビューの中で「 食は愛だけなくアイデンティティの美しいメタファーだ 」
と語っていますが、正にその通り。
何を食べるか、食材をどう料理するか、そこにどんな記憶が浮かぶか、どんな音が聞こえてくるか。
誰と、どんな風に食べるか。
「 食べること 」は、物理的にも精神的にも「 生きること 」そのものだなと感じます。
食は単なる栄養摂取だけでなく、とても情緒に溢れ、自分を自分たらしめるものなのだと気付かされます。
主人公エイブも料理を通して、自分が料理にに込める思いを高め自分を確立していくことが好きです。
料理を食べたり作ったりする表情など作品を見ていてとても豊かな気持ちになりますよ。
嫌いだった点
全体を通して好感を持てる作品なので、嫌いなところはありませんが 「 惜しいな 」と思うのが、主人公エイブの師匠。
ブラジルからの移民で黒人のシェフ、チコの描写の乏しさです。
この役はセウ・ジョルジというブラジルの有名ミュージシャンが演じているのですが (さすがに声はすごくいいです)
その背景などがほとんど描写されていません。
ヘタをすると「 ただの黒人シェフ 」という印象しか与えないのでは?
もったいないと感じました。
多様性を描いている作品なので、マイノリティゆえの苦労や傷などがもう少し描かれていたなら、よりメッセージ性も生まれたのではないかと感じます。
ただ一方で、監督はこの作品に暗いトーンはあえて持ち込みたくなかったのかも。
ゆえに、難しいテーマでありながら、コメディ感覚で見られ、身近に感じることができるのではないでしょうか。
見どころ
イスラエル系の母とパレスチナ系の父を持ち、様々なルーツが集うニューヨーク・ブルックリンに暮らす12歳の少年エイブ。
宗教がもたらす生活態度や考え方の衝突を乗り越えようと、料理を通して皆を1つにしようとする姿がいじらしいです。
トライをするけれども、結局うまくいかずに不貞腐れてしまう姿は可哀想で、健気でなんとも放っておけない気持ちになります。
人は自分が信じるものをなかなか手放せないし、 自分と違う考えの人を受け入れることは簡単じゃないですよね。
それは承知の上。
でも人間はいがみ合う生き物、という固定概念をそろそろ覆していこうじゃないか、という意思が作品画全体に感じられます。
ホロコーストという大虐殺を経験したユダヤ人の祖父がエイブに語る「 君たちの世代は、我々世代が成し遂げなかった平和を実現できるかもしれない 」
という発言からも、時代に新しい一歩を踏み出そうという前向きなメッセージが感じられ、それが今作の魅力になっていると感じます。
考察レビュー
母方の祖母(ユダヤ人)は最近亡くなった設定。
どうやらその祖母がエイブに料理の楽しさやルーツの違いによって人を分断することのないよう教えていたようです。
物語のメッセージ性を描写する人物であり、キーパーソンになりうるかと思いきや、 あまり描写がない点が疑問でした。
まとめ
「 宗教やルーツの違いによる人々の分断 」
という重いテーマながらも、12歳の瑞々しい少年エイブが料理を通してその溝を埋めようとするという描き方は、
決して重苦しくなく、肩の力を抜いて多様性について考える機会になる作品です。
チコを演じるミュージシャン、セウ・ジョルジの挿入歌も素敵な彩りを添えていて、料理も音楽も「 人を繋ぐ 」ということにおいてとても大切だと感じました。